(※写真はイメージです/PIXTA)

日本人の3人に1人が該当するといわれる「脂肪肝」は、あらゆる生活習慣病の入り口として、肝臓病のなかでも要注意の病態です。脂肪肝を脱出するにはどうすればよいのでしょうか? みなと芝クリニック院長・川本徹医師が解説します。

ダイエットは大変だが、脂肪肝の改善に有効

私はこれまで健診を含め700例近くの脂肪肝の患者を診てきていますが、検査を経てNASH*が見つかったとしても、現時点では決め手となる治療法がないのが本当に残念でなりません(*NASH…お酒を原因としない脂肪肝のうち、進行性のタイプのもの。画像参照)。とはいえ放っておけば肝硬変から肝がんへと進んでしまう可能性があるので、減量指導や経過観察が欠かせません。

 

NAFL:単純な脂肪肝。肝細胞に脂肪が沈着しているだけで、炎症や線維化はない NASH:進行性。肝細胞の傷害や炎症を伴っており、肝硬変や肝がんを発症するリスクがある
[図表1]参考:脂肪肝の分類 NAFL:単純な脂肪肝。肝細胞に脂肪が沈着しているだけで、炎症や線維化はない
NASH:進行性。肝細胞の傷害や炎症を伴っており、肝硬変や肝がんを発症するリスクがある

 

多くの人は一度はダイエットを経験したことがあり、結果を出す大変さは身に染みていることでしょう。食事制限や運動を継続していくことは、本当に大変です。

 

脂肪肝の患者の場合にも、ダイエットの指導をし、腹部エコーを定期的に行い経過観察をしていきますが、脂肪はそう簡単になくなってはくれません。じっくり取り組んで変化が見られるまでには、早くても半年くらいはかかります。通院のたびに毎回まだ脂肪肝があると医師に言われては、患者の心が折れそうになるのもわかります。

 

それでも減量の効果は確かにあって、NASHで肥満のある人では「5%の減量によってQOLの改善が得られる」「7%以上の減量によりNASHの肝脂肪化や炎症細胞浸潤、風船様腫大を軽減する」「10%以上の減量により肝線維化も改善する」といったことが報告されています。脂肪肝の改善は体重の3〜5%程度の減少でも効果がある程度見込まれますが、肝線維化を改善させるには10%以上の体重減少が必要になります。

 

脂肪肝と一言でいっても、レベルはさまざまです。まだ生活習慣病は発症していないけれど、脂肪肝だけはあるという人、このままの生活が続けば将来脂肪肝という予備群の人も少なくありません。軽症の単純性脂肪肝のうちなら、十分引き返せます。減量も比較的楽です。だからこそ脂肪肝に気づいたら、即予防と生活改善を図ることが肝要です。

目指すべきは「太りにくい体」づくり

昔言われていた「脂肪肝は大事には至らない」という説は否定され、いまや脂肪肝は、あらゆる生活習慣病の入り口として、肝臓病のなかでも要注意の病態となっています。

 

脂肪肝に特効薬はありません。まず気をつけるべき3大習慣は、糖質のとり過ぎ(飲み過ぎ)、身体活動が少ない(動かない)、不規則な生活です。

 

NAFLDのうち、90%の方は進行しない単純性脂肪肝です。この脂肪肝のうちなら、食事と運動の見直しで改善しますが、残りの10%程度は炎症や肝線維化を伴ったNASHへと進んでしまいます。また糖尿病や脂質異常症、肥満症を合併している脂肪肝は、NASHに移行しやすいといわれています。

 

できるだけ単純性脂肪肝のうちに手を打つことが、脂肪肝脱出への近道です。早ければ早いほど、楽に脂肪肝から抜け出すことができ、肝臓へのダメージも少なくて済みます。

 

健康な方でも肝臓の脂肪は多少増減していますから、できるだけ脂肪をためないという点が非常に大事になってきます。そして病気にかかりにくい健康な体というのは、標準的なBMI値にある体。それはすなわち“太りにくい体”です。男性も、女性もBMIの上昇とともにNAFLDの有病率が上昇する傾向にあります。

 

脂肪肝を解消するために、肥満がある方では体重の7%を目標に減量することが勧められます。最近体重が増えてきたという方は、BMI値が25未満、できれば標準値の22のレベルを目標にしましょう。なかには、適正体重よりやせていても、体脂肪率は高めという、いわゆる“隠れ肥満”の方がいらっしゃいます。若い頃より太ってきた人、運動不足の人、一日中座りっぱなしの時間が多い方は、脂肪肝になるリスクが生じます。食事や運動の見直しは、誰にとっても大切です。

 

とはいえ急にアスリートのような厳しい自己管理をしようとしても、長く続けていくのは難しいでしょう。無理のないペースで、しかし確実に脂肪を減らす生活を、ちょこちょこと取り入れていきましょう(図表2)。

 

[図表2]NAFLDの発症要因となる生活習慣と改善方法

 

 

川本 徹

みなと芝クリニック 院長

 

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※本連載は、川本徹氏の著書『死肪肝』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

死肪肝

死肪肝

川本 徹

幻冬舎メディアコンサルティング

沈黙の臓器、肝臓。 「気付いたときにはすでに手遅れ」を防ぐために――。 臨床と消化器がんを研究し、米国テキサス大学MDアンダーソンがんセンターでがん治療の最先端研究に携わった著者が、脂肪肝の基礎知識とともに肝…

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