「飲酒を原因としない脂肪肝」でも肝硬変になりうる
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)には、病態がほとんど進行しないNAFLと進行性の非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)があり、それぞれ診断基準が異なります。その違いを医学的に説明すると、次のようになります。
●NAFL:肝細胞の脂肪変性のみ、または脂肪変性に炎症細胞の浸潤(白血球やリンパ球などの細胞が炎症の部位に集まっている状態)のみを認める
●NASH:肝細胞の脂肪変性、炎症細胞の浸潤に加え、肝細胞が風船のように膨らむ風船様肝細胞腫大や肝線維化を認める
注意点としてNAFLの一部は、進行速度は遅いものの線維化が進行する(これが肝硬変という病気です)こともあるため、脂肪肝と分かったら、できるだけかかりつけ内科医の指導のもとでの生活習慣改善と経過観察が必要です。
NAFLD/NASHの治療方法
■現状、NAFLD/NASHには「保険適用の薬剤」がない
そもそもNAFLD/NASHは治るものなの?という疑問も湧いてくるかと思います。
まず前提として、現時点で、NAFLD/NASHに対して日本で認められた保険適用となる薬剤はありません。例えば身近な病気では、インフルエンザにかかったらインフルエンザ治療薬、花粉症には花粉症治療薬といった薬がありますが、脂肪肝には確立された治療法というものが、まだないのです。
肥満人口の多いアメリカではNASHの患者が見過ごせないくらい増えているため、治療薬の開発・治験が進んでいます。アメリカでは10社ほどで治療薬について治験が行われており、今後治療の選択肢が広がる可能性は十分あります。一方で日本では試験中の脂肪肝の治療薬はほとんどありません。
■保険適用の薬剤がないからこそ、「進行を防ぐ対策」が重要
まずNAFLDのうち単純性脂肪肝(NAFL)の患者の場合には、減量のための運動療法や食事療法が図られます。脂肪肝の多くは、内臓脂肪の蓄積(メタボリック症候群)とそれに伴うインスリン抵抗性が発症や病態の進行に関与していることから、やはり肥満や炎症サイクルを断ち切るという意味で減量が勧められます。
NAFLDまたはNAFLの段階で注力すべきは、メタボリック症候群を抑えることと、肝障害(炎症や肝線維化)の進行を防ぐことの2つです。メタボがなく脂肪肝だけなら、日常生活の是正を第一にします。肥満、Ⅱ型糖尿病、高血圧、脂質異常症等の合併症があれば、これらの薬物治療も並行して行います。
脂肪肝の治療薬がない以上、NASHへと進む可能性をできるだけ排除しなくてはなりません。脂肪肝の治療では、線維化を早期に見つけることも大きな課題となっていますから、かかりつけ医での定期的な経過観察を欠かさないようにしましょう。
NASHへと進んだ場合にも、肥満症例では食事療法と運動療法により引き続き減量を図り(目標7%以上)、標準体重を目指していきます。生活習慣病がある場合には、積極的にその治療を行います。脂質異常症、糖尿病、高血圧の治療薬の中には、NASHに対して有効とされるものもあります。それでも効果が見られない場合には、それ以上進行しないように胃の容量を減らす治療が検討されます。