(※写真はイメージです/PIXTA)

中小企業の事業承継において、最も重要となるのが後継者への自社株の移転です。そのスキームとして後継者に売る・贈与する・相続させるという3つの方法がありますが、本記事では「相続させる」方法について、そのメリットと注意点をくわしく見ていきます。

相続税の問題は、納税を覚悟したうえで対策を検討する

社長の相続時に、社長の自社株を後継者に渡すことを考えている社長にとって、相続税の問題は悩ましいことでしょう。後継者への相続税負担をなるべく下げたいと考えるのは当然だと思います。

 

相続税の負担を下げるには、自社株の評価額を下げるか、相続ですべて渡すのではなく社長の生前に計画的に後継者に移転することなどで、相続する株数を減らすことが考えられます。さらに、事業承継税制を利用して、後継者の相続税の納税を猶予することもできます。

 

いずれかを行うにしても、まずは、相続税の納税を覚悟し、いまの社長の資産内容で相続が発生したときに、相続税の負担はどのくらいになるか、その額を把握することから対策の検討を始めるとよいと筆者は考えます。

 

現金や、すぐ処分できる有価証券などの流動性のある資産がないと、納税はできません。しかし、流動性のない自社株が資産のうちの多くを占めている社長は多いでしょう。自社株は流動性のない資産でありながら、納税額を決めるうえでの評価額は大きくなり、それを後継者にまとめて継ぐと、後継者は納税できなくなる…。この構造こそが、後継者への自社株承継における大きな課題なのです。

 

仮に社長が流動性のある資産を多めに持っていたとしても、相続税の納税のために自社株も流動性のある資産も後継者が相続すると、後継者以外の相続人には不平等な遺産分割となります。不平等が生じれば、当然に争いは起こります(そのようなことを認める家族もいるでしょうが、やはり不平等感はぬぐえないもので、後継者に偏った遺産分割は家族間のわだかまりを生じるものになると筆者は考えています)。

 

民法の改正では、遺留分侵害の争いは、金銭で解決することになりました(民法1046条)。相続税の納税に加えて、遺留分対策にも金銭が必要となり、ますます流動性のある資産を増やすことを検討する必要があります。

 

まずは遺言を作成して、後継者に自社株を承継するようにし、そして、後継者が相続税の納税ができるよう準備を進めていくことが必要です。納税をまずは覚悟して、準備を進めるのです。準備には一定の時間が必要なため、早くから着手するのに越したことはありません。

 

社長や後継者が多くの役員報酬を取り、流動性のある資産を増やすという考えもあるでしょう。しかし、役員報酬を高くすると、所得税の負担が大きくなり、所得税を納税した後の資産を積み上げていくには時間がかかります。所得税も多く払いながら、将来の相続税負担のために準備するというのは、後継者もなかなか気の進まないことかもしれません。

 

一定の時間をかけて流動性資産を準備することも必要ですが、同じ時間をかけた準備をするならば、生命保険を検討することも必要と筆者は考えています。生命保険は、社長を被保険者とする生命保険を法人が契約することも検討するとよいでしょう。

 

筆者の経験では、法人が契約する生命保険は、会社の利益を繰り延べることを目的に契約したのであって、自社株承継に必要な資金(相続税の納税や相続人の遺留分対策など)の準備のために契約をしているという社長は、以外と少ないと感じています。

 

生命保険は、社長が健康なうちにしか契約できないものです。被保険者の身体的な面での引受基準が緩和された生命保険もあるようですが、社長の生命保険の見直しや追加の契約の検討は、事業承継の課題解決のために、早くからその準備を始めた方がよいでしょう。

 

社長は、まずは遺言を作成し、それに加えて生命保険の契約内容の確認、必要に応じて契約の変更や追加の契約の検討することを1セットとして、事業承継に備えていくとよいでしょう。

 

 

石脇 俊司
一般社団法人民事信託活用支援機構 理事
株式会社継志舎 代表取締役

 

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