【中小企業の事業承継】社長が後継者に〈自社株を一括で贈与する〉メリットと課題 (※写真はイメージです/PIXTA)

中小企業の事業承継において、最も重要となるのが後継者への自社株の移転です。選択肢としてしばしば比較されるのが、「暦年贈与」と「一括贈与」ですが、それぞれ一長一短あります。ここでは「一括贈与」のメリットと課題を中心に、くわしく見ていきます。

中小企業の事業承継、悩ましい「自社株移転の方法」

暦年贈与は、その期間が長いほど、後継者により多くの自社株を移すことができます。後継者の贈与税の負担をふまえて、毎年贈与する自社株の数を決め、計画的に暦年贈与することで、後継者が将来負担することになる相続税の負担を少なくすることもできます。

 

ただし、今後、税制改正で相続と贈与の一体課税が検討されており、暦年贈与について変更される可能性があり、今後の動向には注目しておくことが必要です。

 

暦年贈与は、社長の判断能力がある限りにおいて実行することができますが、将来、社長が認知症などにより判断能力を欠くようなことになれば、その後は自社株を贈与できません。また、社長が早期に亡くなってしまうと、計画したほど自社株を後継者に移せないこともあります。社長の状況により、暦年贈与が突然ストップしてしまうことがあり、暦年贈与の開始時に想定したほど後継者に自社株を移せないことがあります。

 

後継者への自社株承継対策として生前贈与は有効な方法です(社長が後継者に社長の自社株を毎年贈与する暦年贈与のメリットと課題については、記事『【中小企業の事業承継】社長の生前に〈承継者に自社株を贈与する〉メリットと課題』〈https://gentosha-go.com/articles/-/43339〉参照)。

 

ここでは、社長の子が後継者となる親族承継を前提に、社長の自社株を一括して後継者に贈与するメリットと課題について考察します。

「一括贈与」なら、相続時の揉めごとも回避可能に

社長が後継者に自社株を一括で贈与すると、当然ですが、それ以降、後継者が自社株を所有することになります。後継者は、社長に代わって株主として会社を支配します。

 

自社株を贈与せず、社長が亡くなるまで自社株を所有していると、自社株は社長の相続時に遺産となります。後継者を含めた相続人が社長の遺産を承継します。社長の遺言があれば、遺言内容に従い遺産が分割されます。社長の遺言がなければ、相続人同士が遺産を分割します。

 

社長が亡くなったのち、後継者が会社を経営するためには、社長が所有していた自社株のほとんどを後継者に集中する必要があります。後継者に自社株を集中して承継させると、後継者以外の相続人にとっては、不平等な遺産分割となります。そのため、社長の遺言がない場合には、後継者に自社株を集中する遺産分割は速やかに進まないこともあるでしょう。

 

社長が後継者に自社株を承継すると遺言で指定していれば、相続人同士による遺産分割を行わずに、後継者が自社株を承継しますが、後継者が他の相続人の遺留分を侵害してしまうかもしれません(被相続人〈社長〉の兄弟姉妹には遺留分がありません)。後継者がほかの相続人の遺留分を侵害すると、遺留分を侵害された相続人は、後継者に遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求することができます。後継者は請求された金銭を支払わなければなりません。

 

このように、自社株が社長の遺産となる場合には、遺産分割においてもめ事が生じやすく、社長が亡くなったのちの後継者による会社経営にも影響を与えかねません。

 

一方、社長が自社株を後継者に生前贈与すれば、それ以降、自社株は後継者の資産となります。後継者への自社株承継は完了しているため、社長の相続時に問題が生じません。しかし、社長の相続開始前十年間に贈与した財産は、遺留分侵害額を計算する財産に加えられることは覚えておかなければなりません(民法1043条、1044条)。

だが、納税額を考えると「一括贈与」にためらいも…

自社株の一括贈与における課題は、なんといっても後継者の贈与税の負担です。贈与する資産額が4,500万円を超えると(110万円の基礎控除額を差し引いた後の額)、55%の贈与税率が適用されるため(直系尊属〈祖父母や父母〉から18歳以上の子や孫が贈与を受けたときに適用される特例贈与財産用の特例税率)、多くの自社株承継では、相続で自社株を後継者に承継するほうが、後継者の税負担が軽くなると考えられます。一括贈与で、後継者への確実な自社株承継は可能になるものの、納税額のことを考えると一括贈与は、なかなか選択できないというのが現実かと思います。

 

会社の状況により、株価が大きく下がったときに自社株を贈与すれば、贈与税の負担は小さくなります。昨今のコロナ禍の影響で一時的に売上が大きく下がって赤字となった会社や、社長が勇退して多額の役員退職金を支払ったことから株価が下がったという会社などは、一括贈与を検討するタイミングかもしれません。また、今後利益が継続的に出ていくことが予測できる会社の将来の株価は高くなるため、将来より安い今の株価で贈与することを考えてもよいかもしれません。

 

上記のような会社は、60歳以上の父母または祖父母から、18歳以上の子または孫に対し、財産を贈与した場合において選択できる贈与税の制度である「相続時精算課税制度」を利用して、自社株の一括贈与を検討するのもありだといえます。相続時精算課税制度では、贈与財産の価額の合計額から、複数年にわたり利用できる特別控除額(限度額2,500万円。ただし、前年以前において、すでにこの特別控除額を控除している場合は、残額が限度額となります)を控除した後の金額に、一律20%の税率を乗じて贈与税を算出するため、通常の贈与税率に比べて贈与したときに適用される税率は低くなるため、利用を検討する価値があるかもしれません。

 

しかし、相続時精算課税制度の利用には注意が必要です。この制度を利用して贈与する贈与者から贈与を受ける財産については、この制度利用を選択した年分以降、すべてこの制度が適用され、「暦年課税」へ変更することはできません。制度利用以後、贈与する際には、暦年課税の基礎控除額110万円を控除することはできません。贈与を受けた財産が110万円以下であっても贈与税の申告をする必要があります。

 

また、この制度の贈与者である父母または祖父母が亡くなった時の相続税の計算上、相続財産の価額にこの制度を適用した贈与財産の価額(贈与時の時価)を加算して相続税額を計算します。そのため、相続時の資産価額が贈与時の資産価額より低くなっていた場合、贈与時の価額が適用され相続税の計算上、課税対象価額が大きくなり不利となります。この制度を利用するかを判断する際にこれらの注意点をふまえて判断する必要があります。

 

一般社団法人民事信託活用支援機構 理事
株式会社継志舎 代表取締役 

外資系生命保険会社、日系証券会社、外資系金融機関、信託会社を経て、本機構の立ち上げに参画。金融機関での経験を活かし、企業オーナー等の資産承継対策の信託実務を取り組む。会計事務所と連携した企業オーナーや資産家への金融サービスの提供業務にも経験が豊富である。著書に『信託を活用した ケース別 相続・贈与・事業承継対策』(共著・日本法令)『「危ない」民事信託の見分け方』(共著・日本法令)がある。

株式会社継志舎
東京都中央区日本橋兜町11-10 兜町中央ビル402
TEL:03(5542)1233
HP:http://keishisha.com/


著者紹介

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