「不動産屋の作ったチラシ、値段が違ってる!」
オダテル不動産と実家売却のための専任媒介契約を結んで、3カ月が経とうとしていました。
その間、数回オダテル不動産から連絡はあったものの、相変わらず買手候補が提示する希望価格は2500万円前後。契約を交わした以上報告を信じるしかありませんが、本当に3000万円で問い合わせしてくる買手候補がいないのか、疑惑も消えません。
家の精から「双方代理」や「囲い込み」、そして「ワンツースリー」といった手口のカラクリを教えてもらった以上は、売却の決断は慎重に行っていこうと決めました。
そんな私の態度を察してか、オダテル不動産からの報告も、回を追うごとに声のトーンが落ちてきたような気がしています。
私は仕事が忙しくて情報収集が疎かになり、兄も仕事でいっぱいいっぱいなのか、連絡が途絶えていました。実家売却のこと自体、忘れてしまう日が続いていました。
そんな矢先、事態は急展開を迎えることになりました。
アサミ:あれ?
家の精:ん。どうした。
アサミ:隣町に行ったら、不動産屋さんが作ってくれたうちのチラシを配ってて、1枚持って帰って来たんだけど……これ見てみてよ。
家の精:2500万円で販売……ディスカウント許可したのか?
アサミ:ううん。そんな許可出した覚えないんだけど。
家の精:これはもしや。電話で確認してみたほうがいいぜ。
アサミ:……そうね。(家の精のあの苦い表情、嫌な予感がするわ)
「値下げせず、三千万円で頼んでいるはずですが?」
アサミ:あの、もしもし、ミツウラですが。
カワイ:はい、お世話になっております!
アサミ:実は今、そちらで作成してくれた、うちの物件のチラシを確認したら、価格が2500万円になっていたんですが。まだ値下げはせず3000万円での販売をお願いしていたと思うんですけど。
カワイ:え……っと、ちょっと確認してみますね。
家の精:もうここらが潮時だな。
アサミ:え?
カワイ:お待たせしました。申し訳ございません、確認しましたところ、情報を入力する事務員が数字を間違えて打っていたみたいでして。
アサミ:え、ミスで打っていたんですか……。
家の精:やっぱりな。ちょっと貸してみ。
アサミ:ちょっと!
家の精:もしもし、おたくさ、どんだけずさんな管理してるんだよ。事務員が数字打ち間違えてても、チラシを見たときに誰かが気づくはずだよなあ。もうこれは解約もの。ちょうど3カ月で契約更新が近いし、ここらで解約だ!
アサミ:ちょっと返して……す、すいません。
カワイ:あの、今の方は?
アサミ:えっと、不動産に詳しい友人にアドバイスをもらっておりまして。
カワイ:左様ですか。この度は本当に申し訳ございません。すぐにミスを直しますので……。