仲介業者が3段階で儲けられる仕組み
不動産仲介業者が駆使するテクニックに、「ワンツースリー」というものがあります。なぜそう呼ぶのかというと、仲介業者が3段階で儲けられる仕組みだからです。
まず売主からの仲介手数料でワン、続いて建売業者である買主からの仲介手数料でツー、そして建売業者が建てた住宅の販売手数料でスリーとなります。
しかもスリーにあたる建売住宅の販売時は、売主からも買主からも両手で稼ぐことができます。例えば一つの土地に3棟の建売住宅を建てたとしたら、このワンツースリーの一連の取引のなかで、不動産仲介業者は計8回(売却代理手数料の1回、購入代理手数料の1回、建売住宅販売手数料の双方代理3棟分の6回)も、仲介手数料という名の莫大な報酬を得ることができる計算になります。
近所を散策中、「ここ、大きめの屋敷が建っていたのに、いつの間にか建売住宅が3棟も建っている」という現場を目撃した経験があるかもしれません。お屋敷が3軒の建売住宅となるまでの詳しい経緯について、部外者である我々は知るよしもありませんが、その背景にももしかしたら、ワンツースリーで儲けて高笑いする仲介業者がいたのかもしれないのです。
アサミ:違法ではないんだろうけど、売主としては釈然としないわね。
家の精:何度も念を押しておくが、仲介業者がこのようなテクニックを使えるのは、そもそもの出発点で売主と専任媒介契約を結んだからだ。
建売業者から提示された額面での売却が達成できるよう、仲介業者は売主にさまざまな「ディスカウントのためのアプローチ」をかけます。売主の好みそうな担当者をつけたり、趣味の話などを交えることで親交を深めたりすることで、厚い信頼を得てディスカウントに応じてもらうために、やれることならなんでもするのです。
さりげない「刷り込み」によって売主に値下げを検討させる手法も仲介業者はよく使います。例えば売主との間で次のような会話を交わすのです。
「購入を検討されているお客さんと交渉をしていたのですが、あと少しで決着するという直前でお客さんが同じような物件を見つけて、そちらのほうが安いということで断られてしまいました」
「それで、その安い物件っていくらだったの?」
「○○万円です」
「えーっ、うちと同じような物件で、そんなに安いの?」
「あのあたりは最近地価が下がり傾向のようで、このくらいの価格でないと厳しいのかもしれませんね」
これがさりげない刷り込み作業です。担当者は、不動産に関しての話はここで切り上げ、趣味の話や時事ネタなど何気ない話題に切り替えていきます。決して「私たちも値下げしましょう」とは直接提案しません。
しかし仲介業者との会話のあと、ボディブローのように、このやり取りがじわじわと効いてくるのです。「今の価格のままだと売れないのかもしれない」「今後も安い価格で同じような物件が出続けたら、自分の物件はいつまで経っても売れない」という焦りが生じて、最終的には値下げの提案を売主のほうからすることになります。
「当初のご希望額でなんとか売りたい気持ちでしたが、かしこまりました」と、仲介業者は終始厳粛な態度をとるでしょうが、内心ガッツポーズでしょう。その足でさっそく交渉中の取引先へ向かい、「値下げできました!」と吉報を届け、「ワンツースリー」の次の段階へとプランを進めていくわけです。