歯科医師と「仕上がりイメージ」を共有
■ドクターと患者さんが共有できるような具体的な目標設定を
「矯正治療ではゴール設定がしっかりしていることが非常に重要」とお伝えしましたが、では「ゴール設定がしっかりしている」とはどういうことかを説明します。
簡単にいえば、「最終的な仕上がりイメージ」が、ドクターと患者さんとで共有できているということです。矯正医が患者さんに「仕上がりイメージ」を伝える方法は、いくつかあります。
たとえば当院では、CT(Computed Tomography:コンピュータ断層診断)装置を使って、口内の「現状」を画像で再現し、そのCTを元にそこから3Dモデル(3DCADを用いて作成された立体的なモデルデータ)を作成して、「理想」(将来像)をシミュレートしていきます。
現在の口内の状態をCTで撮影した画像を見ながら、患者さんがイメージしやすいように画像を使って説明していくのです。
このように、本人の希望と、医師の見解(それができるのかどうかなど)をすり合わせていきます。そうはいっても、たとえば「あごを何センチも拡大することなどできません」と、できないことはできないとお伝えする場合も、もちろんあります。
そうしたことを明確にしつつ、患者さんの「こうありたいこと」と、矯正医としての「できること・できないこと」のバランスを取りながら、患者さんとドクターとですり合わせていきます。ですから、繰り返しになりますが、「絶対抜く」とか「絶対抜かない」ということは、最初から決めるわけにはいかないのです。「やはり、この仕上がりにするのなら抜かないと難しい」ということも、当然出てきます。
当院で使用しているのは、パソコン上でCTのデータを送ると3Dモデルが作成でき、さらにその歯を動かしてシミュレートすることができる、非常に使い勝手がよいものです。3Dモデルであれば、その場で元の状態と理想とをすぐ比較できるほか、元の状態を重ねて見ることもできるので、「こうすると、これだけ口元が下がる」といったことが一目でわかります。治療の限界がわかるので、その中で、より本人の希望に沿ったものにしていくことができます。
この3Dモデルは、当院では、2014年から使い始めましたが、まだあまり普及していません。
この方法以外にも、セットアップモデルという石こう模型を使って、歯の並びをシミュレーションする方法もあります。シリコンやアルジネート(水溶性のアルギン酸塩と石こうを反応させて、不溶性のアルギン酸カルシウムとして硬化させたもの)などの印象材を使って歯型を取ったうえで、そこに石こうを流して、模型をつくります。
その模型を使って、正しい歯並びとなるよう再配列した模型をつくって、それをゴールとして患者さんにお見せします。
矯正治療のゴールは、具体的にドクターと患者さんが共有できるように設定するのが大事だと思います。
たとえば、内科にかかった時に血液検査をすると、さまざまなデータが結果として出てきますよね。その中で下げたい数値があった時、「この数値を△△以内まで下げましょう。それにはこの薬を使います」となりますよね。そうしたことと同様に、ゴール設定は数字やビジュアルでわかるようにすべきだと思います。
もう一つ、いざ矯正治療をスタートする時に大事なことは、何度もお伝えしていますが、自分と近い症例を見せてもらうことです。たとえば、「口元を何ミリか下げたらこんな感じになりますよ」というように、美容院のヘアスタイルカタログではないですが、過去の例を見せてもらえれば、ゴール設定が比較的しやすくなります。