(※写真はイメージです/PIXTA)

近年になって蓄積されてきた前向き調査疫学研究(Prospective Study)で、高齢者糖尿病では認知症の合併が多いことが報告されています。糖尿病と認知症の関係について、最新の知見を基に見ていきましょう。※本稿は、小西統合医療内科院長・小西康弘医師並びに株式会社イームス代表取締役社長・藤井祐介氏との共同執筆によるものです。

糖尿病だと「発症リスクが高くなる」ワケ

■糖尿病だと脳の血流が低下しやすい=脳血管性認知症の発症リスクも高い

脳血管の動脈硬化が進み、血流が低下すると細小な血管が詰まり、巣状に細かい梗塞層が多発します。これは、潜在的虚血病変とかラクーナ梗塞と呼ばれ、大きな血管が詰まった場合と違って症状が出にくいため、気づかれにくいという特徴があります。何だか最近、物忘れが増えてきたと思って、検査を受けて初めて気づかれることも少なくありません。糖尿病になるとこのように細小血管が詰まりやすいので、発症リスクが高くなるのは理解しやすいと思います。

 

■なぜアミロイドβが蓄積するのか?糖尿病とアルツハイマー病の関係性

では、糖尿病の人がアルツハイマー型認知症を合併しやすいのはどうしてでしょうか?

 

アルツハイマー病を最初に報告したアルツハイマー博士は患者の脳組織を詳しく調べ、のちにアミロイドβと分かる物質が沈着していることを発見しました。そして、このアミロイドβが沈着していることで、脳組織を破壊し認知症が起こると考えました。これを「アミロイド仮説」と言い、現在で最も有力な説であると考えられてきました。

 

しかし、ではどうして、アミロイドβが脳組織に沈着するのか?については、これまでも多くの議論がされてきたのです。そして、最近では、脳に起こった慢性炎症が原因であるとする説が有力です。

 

では、次に高血糖状態がどのようにして慢性炎症を起こすのかということについて見ていきましょう。

 

持続的な高血糖がもたらす「糖化物質」を排除するため、炎症が起こる

高血糖症は全身に活性酸素を発生させるので、脳組織にも慢性炎症が起こりやすくなっているということは容易に考えることができます。さらに血糖が高い状態が続くと、身体のタンパク質と結合し変性させます。これを「糖化」と言いますが、糖化物質を排除しようとして、炎症が起こります。炎症とは身体に蓄積した異物を排除しようという生体の防衛反応なのですが、その原因が取り除かれないと慢性炎症の原因となるのです。

 

ブドウ糖は多数の異なるタンパク質に接着し、タンパク質の機能を妨げます。糖尿病のコントロールの指標に用いられるヘモグロビンA1cは、そのような変性した分子を簡易に測定したものです。

 

高血糖状態におけるブドウ糖分子は、タンパク質と生化学的反応を起こし、AGE(終末糖化産物というものに変化します。AGEとは、タンパク質に糖が結合し、熱が加わることで毒性の高い物質に変化した老化タンパクの一つです。動脈硬化やアルツハイマー病、骨粗しょう症、白内障などに関連すると考えられています。このAGEには次のような作用があると言われています。

 

(1)AGEが接着したタンパク質は、免疫細胞には異物に見えるため、自分自身のタンパク質に抗体を作ってしまい、炎症の引き金となる。

 

(2)AGEは、身体にあるRAGE(終末糖化産物受容体)と呼ばれる受容体に結合し、慢性炎症を引き起こす。

 

(3)AGEは、活性酸素生成の原因となり、DNAや細胞膜など、この不安定な反応性物質がぶつかったものにダメージを与える。

 

(4)変性したタンパク質は血管を傷つけ、脳への栄養供給を減らし、血液と脳の間のバリアにある漏れ(リーキーブレイン)の原因となる。

 

このように、高血糖症は直接的に脳内に慢性炎症を起こし、アミロイドβが脳内に沈着する方向に働くのです。

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