(※写真はイメージです/PIXTA)

中小企業の事業承継において、最も重要となるのが後継者への自社株の移転です。選択肢としてしばしば比較されるのが、「暦年贈与」と「一括贈与」ですが、それぞれ一長一短あります。ここでは「一括贈与」のメリットと課題を中心に、くわしく見ていきます。

「事業承継税制の特例措置」を利用する?

事業承継税制は、後継者が、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(円滑化法)の認定を受けている非上場会社の株式等を贈与又は相続等により取得した場合において、その非上場株式等に係る贈与税・相続税について、一定の要件のもと、その納税を猶予し、後継者の死亡等により、納税が猶予されている贈与税・相続税の納付が免除される制度です。平成30年度税制改正で、10年間の措置として、納税猶予の対象となる非上場株式等の制限(総株式数の3分の2まで)の撤廃や、納税猶予割合の引上げ(80%から100%)等がされた特例措置が創設されています。

 

一括贈与における税の課題を解決する方法として、この制度の利用を検討するのもよいかもしれません。特例措置を利用する際には、特例承継計画の提出期限、贈与の適用の期限がありますので、お早めの検討をお勧めします。

 

一方、この制度は、あくまでも税を猶予する制度であることを覚えておく必要があります。認定取り消し事由に該当していることが判明したときには、猶予されていた税を納税しなければなりません。さらに猶予されていた税に加えて、猶予されていた期間の利子税も負担する必要があります。

 

本稿は、事業承継税制の特例措置の解説を目的としたものではないため、制度の詳細については国税庁のホームページ(https://www.nta.go.jp/publication/pamph/jigyo-shokei/houjin.htm)などの解説を確認する、または税理士に問い合わせてください。

税負担=承継コストと考え、自社株承継方法の検討を

現社長から後継者が社長の座を引き継いで会社を経営し続けるためには、後継者への自社株承継は必須です。後継者は発行済み株式の3分の2以上(株主総会の特別決議ができる議決権割合)の株式を所有することができるとよいでしょう。

 

では、後継者はその株式をいつどのように取得するか? 本稿では、その渡し方が重要であり、渡し方次第で事業承継が変わってしまうことを言及してきました。

 

自社株の暦年贈与を中心に解説した記事『【中小企業の事業承継】社長の生前に〈承継者に自社株を贈与する〉メリットと課題』、そして今回と、社長が生前に後継者へ自社株を贈与するスキームについて述べてきました。

 

社長が生前に後継者に自社株を贈与すれば、後継者への自社株承継は完了します。生前贈与は、社長の相続時に自社株を後継者が承継することの問題を回避できるため、後継者へ確実に自社株を承継するには一番よい方法であると筆者は考えます。しかしその一方で、後継者には贈与税の納税負担があるため、生前贈与はなかなか実行できません。事業承継税制の特例措置を利用すれば、後継者の納税は猶予されるため、自社株承継の際の税負担は生じません。しかし、あくまでも「猶予の措置」が取られていると、十分な理解が必要です。

 

自社株承継に税の負担は免れません。そのため、税を無くすることを考えるのではなく、税はコストと位置付けて、コントロールする計画作りが必要と考えています。

 

税をコントロールする計画には、税理士の関与が欠かせません。社長は、なるべく早い段階で税理士に相談し、計画作りを始めていくことをお勧めします。

 

 

石脇 俊司
一般社団法人民事信託活用支援機構 理事
株式会社継志舎 代表取締役

 

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