心不全の治療に用いられる「ペースメーカー」とは
薬物療法で改善が見られない心不全の場合は、ペースメーカーを植え込み、人工的に心臓の働きを助ける治療が行われることがあります。
ペースメーカーとは、心筋に電気刺激を与えることで心臓に心収縮を発生させる医療機器のことです。紐のようなリードと本体で構成され、リードを心臓内に、本体を鎖骨の下あたりに植え込んで使います。
ペースメーカーの優れている点は、個人個人に適した電気刺激を与えることができることです。また、設定を変更したり電池の残量をチェックしたりすることも簡単に行うことができ、一度、体内に植え込んだあとは、3〜6ヵ月に一度、外来で機能確認をすればよい程度です。
ペースメーカーは心不全のみならず、不整脈で脈拍が遅くなる疾患にも適応され、心臓が弱っている人にとって大きな助けとなっています。
心不全における代表的なペースメーカー療法、「CRT」
心不全に用いられるペースメーカー療法として代表的なものは、CRT(心臓再同期療法)です。
これは、心臓のポンプ機能になんらかの障害をもつ患者に対して行われるペースメーカー療法です。心臓には右心房、左心房、右心室、左心室の4部屋があり、特殊な電気信号が心房から心室に伝わることで心臓は拍動しています。健康な人の場合、この電気信号は規則正しく発せられ、心臓は健全な拍動を行っています。しかし、心臓に障害が起こるとこの電気信号の伝わり方にずれが生じ、左右の心室が収縮するタイミングが狂ってしまうのです。
タイミングにずれが起こると、心臓の必要な血液を送り出す力が弱くなります。そこで活躍するのが、CRTです。CRTはペースメーカーによって心臓に伝わる電気信号の順序を整え、心臓のポンプ機能を正常にしてくれるのです。
CRTの治療が適応になるのは、不全の重症度を示す「NYHA心機能分類」が3〜4度の心不全の人で、左室の駆出率が35%以下の人、左脚ブロックの人、心電図のQRS幅が120ミリ秒以上の人で、薬物治療抵抗性であることとなっています【図表】。
欧米では1990年頃からCRTの治療が行われていましたが、日本では2004年4月1日から保険で認可されました。その後、日本でも有効性が認められるようになり、現在では多くの患者の命を救っています。
ただし、すべての心不全の患者に適応となるわけではなく、またCRTの治療を行えるのは、厚生労働省が認可した施設に制限されています。
発作による突然死を防ぐ「ICD」
CRTのほかに心不全に対する機器を使った治療として一般的なのが、ICD(植え込み型除細動器)です。
簡単にいうと、ICDとは命に関わる不整脈が起きたとき、自動で心臓に電気ショックを与えたり、電気刺激を繰り返し与えたりすることで、心臓の正常なリズムを取り戻すものです。
CRTは心不全が適応でしたが、ICDは心室頻拍や心室細動のように、命に関わる不整脈に適応があります。つまりICDは、常に心臓の脈を監視して、致死的な不整脈の発作が出た場合、すぐに電気刺激か電気ショックを発生させ、発作による突然死を防いでくれる装置なのです。
中等度から重度の心不全の患者の場合はこうした不整脈が起こることがあります。それを防ぐために、心不全の患者もICDの適応になることがあるのです。
また、CRTにICDの機能を加えたものに、CRT-Dという機器もあります。これは、心室の同期に障害が起きていることに加えて心室頻拍や心室細動を起こしたことがある人や起こす可能性の高い人が対象となり、心不全の治療と同時に突然死のリスクを抑えます。
CRT、ICDを用いる場合の注意点
CRT、ICDともに入院手術により、機器を体内に植え込みます。手術時間はおよそ2~3時間、入院の日数は植え込み単独だと5日前後です。
退院後は、普通の日常生活を送ることができます。しかしCRTやICDの機器は外部からの電気や磁力に影響を受けることがあるため、マッサージチェア、体脂肪計、高周波治療器、低周波治療器、全自動麻雀卓などは使用できません。また、電気自動車の急速充電器や電磁調理器、IH炊飯器、携帯電話、盗難防止装置などの影響を受けることもあるので注意が必要です。
最新の機種は電磁波の影響を防ぎ、MRIも可能となっていますが、過去の植え込みでは、MRI非対応機種もありますので、植え込んだ病院でどちらの機種か確認しておくとよいです。
大堀 克己
社会医療法人北海道循環器病院 理事長
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