1995年、バブル崩壊後も建設業界にはまだ勢いが残り、公共事業は過去最高の35兆円。しかし、浮かれる業界をしり目に「必ずバブル崩壊の余波が表面化する。大型工事の数が減少に転じたら…」と危機感を募らせていた、山陰地方のある中小建設会社の責任者がいました。展開を目論んだのはB to C事業。しかし、経済環境が厳しい山陰地方は、エリアとして最悪ともいえる場所です。打開策はあるのでしょうか。

追い込まれた中小企業が食らいつく「腐った肉」

1996年、私は48歳で本社に戻り、常務取締役に昇進しました。肩書は営業本部長で、営業と現場管理・施工現場の総責任者という立場となりました。

 

この頃建設投資はまだ活発であり、前年の公共事業は35兆円と過去最高となっていました。わが社としても、業績のほとんどを大型工事で賄っていました。

 

そんな業界の好景気をしり目に、私は危機感をもっていました。

 

(今は順調だけれど、この先必ずバブル崩壊の余波が表面化し、大型工事は減ってくる。そのときも現在のような大型工事頼みのスタイルでいたなら、下手をすると会社が潰れてしまう……)

 

もし大型工事の数が減少に転じたなら、間違いなく起こるのがダンピング受注です。川上にいるスーパーゼネコンから、いくつもの業者を挟むことでどんどん値段が叩かれていき、地方の建設業者まで仕事が回ってくるころには利益などまず出ない状態となるのです。

 

仮に売上1億円の仕事であっても、それを受けることで100万円の赤字が出るようなら、事業としては成り立ちません。そうして利益の出ない仕事を、私は「腐った肉」と呼んでいます。

 

中小企業の多くは、経営が苦しくなると「背に腹は代えられぬ」とばかり、腐っていると分かっていてもその肉に手を出してしまいます。すると、その場では胃袋を満たせてもすぐに腹を壊し、より体力を削られることになって、結局は死期が早まります。

「大型工事に代わる、新たな収入源を探さなければ…」

(腐った肉を食わざるを得ない状態になったら、うちの会社は終わりだ……大型工事に代わる新たな収入源を探さなくてはいけない)

 

そうして私は、事業の転換を本気で考えました。

 

すると以前に読んだ経済学者ピーター・ドラッカーの本の一節が、ふっと頭に浮かんできました。

 

”企業の目的は、顧客の創造である”

 

顧客の創造、すなわち自ら市場を新たに開拓することこそ企業のあるべき姿で、フロンティアスピリッツが経営の礎となる。私はそう理解していました。

 

(今こそ、出雲営業所での経験を活かすときだ。同業者を蹴落とさずに利益を上げられる新たな市場を自分で開拓し、事業の軸足をシフトしていくしかない。百貨店の様なスタイルではなく、コンビニで行こう。大型がだめなら、残るは小さな仕事だ。小口工事で食っていくしかないだろう)

 

社内で最も若い営業所長として研鑽を積んだ出雲営業所時代の経験から、小さな仕事でも積み上げれば着実に利益が増していくというのは分かっていました。

 

一般家庭やエンドユーザーから直接受注する小口工事は、下請けや孫請けの仕事とは違い、間に業者が入らない分利益率が高くなります。その数が増えれば、建設不況時に「腐った肉」を無理に食べずとも、十分に生き残っていけるはずです。

 

出雲営業所での成功は人脈によるところが大きかったですが、全社的に事業を方向転換すると仮定するならより多くのエンドユーザーを獲得すべく、一般顧客に対するアプローチも検討しなければなりません。

 

ただ、果たして小口工事で島根電工の屋台骨を支えるほどの売上が立つのかどうかは未知数でした。

 

私は悩み、社内の何人かに相談してみましたが、最初は「小口工事なんて……」と、誰も真剣に取り合ってくれませんでした。そこで、これまで細々と受けてきた小口工事のデータを洗いざらい見てみると、いずれもしっかりと利益が上がっていると分かりました。

 

(数をこなせる仕組みさえうまくつくれば、いけるんじゃないか)

 

大型工事は、その数が減るにせよ突然ゼロになるとは考えづらいため、ある程度の収入は見込めるはずです。仮に大型工事が半分にまで減るとするなら、グループ全体の売上約100億円が、50億円まで目減りすることになります。そうして失った50億円分を小口工事で補えれば、会社は安泰です。

 

そんな目算が立ったことで私は腹をくくり、小口工事事業に本腰を入れて取り組んでみることにしました。

 

 

荒木 恭司
島根電工株式会社 代表取締役社長

 

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荒木 恭司

幻冬舎メディアコンサルティング

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