1995年、バブル崩壊後も建設業界にはまだ勢いが残り、公共事業は過去最高の35兆円。しかし、浮かれる業界をしり目に「必ずバブル崩壊の余波が表面化する。大型工事の数が減少に転じたら…」と危機感を募らせていた、山陰地方のある中小建設会社の責任者がいました。展開を目論んだのはB to C事業。しかし、経済環境が厳しい山陰地方は、エリアとして最悪ともいえる場所です。打開策はあるのでしょうか。

スーパーゼネコンの裾野で喘ぐ、多数の中小零細建設業

建設業界に今、冬の時代が訪れようとしています。

 

東日本大震災以来、復興・復旧工事や景気回復に伴う民間投資の拡大、東京五輪の関連工事などで好調な状況が続いていた建設業界でしたが、コロナ禍でその流れが一気に変わりました。民間設備投資の減少は顕著で、不景気の波は確実に建設業界にも押し寄せつつあります。

 

業界に君臨する鹿島建設、大林組、大成建設、清水建設のスーパーゼネコン4社の2021年3月期売上高合計は10年ぶりに減収となり、翌年の当期利益予想も4社そろって「減益」としています。

 

スーパーゼネコンの減益によって、業界のすそ野を支える何万もの中小零細建設業者は無理な価格での発注を強いられるなど、苦しい経営状態に追い込まれています。

 

東京商工リサーチの調査(2021年5月時点)によると、コロナ関連の支援があった2020年は倒産件数が抑えられていましたが、支援策もいよいよ息切れの様相を見せ、建設業界の「新型コロナ破綻」は498件と飲食業界に次いで多い数字となっています。

 

地方の建設業者にとっては、まさに今が正念場です。

 

かくいう私も地方の建設業者です。

 

私の会社はグループ本社を島根県松江市におき、島根県と鳥取県を中心としたエリアで事業を営んでいます。創業は1956年で、電気設備工事会社としてゼネコンから大型工事を受注することで事業を拡大してきました。

 

しかし、バブルがはじけ日本経済の成長神話の終わりを目の当たりにした私は、これまでどおりの大型案件一本槍では一度の不況で会社が潰れるかもしれないという危機感をもちました。そして建設不況に強い体質へと会社を生まれ変わらせるような、新たな事業を模索したのです。

 

そこで1996年に開始したのが、一般家庭やエンドユーザーを対象とした小口工事です。ユーザーと直接商いをする小口工事であれば、建設不況となっても比較的安定して利益を出せると考え、B to BからB to Cへの進出を決意したのです。

 

しかし、会社を取り巻く事業環境は決していいとはいえないものでした。

 

島根県や鳥取県といえば、日本のなかでも特に経済環境の厳しい2県です。内閣府が2021年8月に発表した「国民経済計算」のデータによると、県の経済状況や景気の指標となる県民経済計算の値は、最新調査(2018年度)において鳥取県が全国で最下位、島根県が下から3番目となっています。

 

加えて島根県は約66万人、鳥取県は約55万人の人口しかありません(2021年)。2県を足しても121万人に過ぎず、東京都の世田谷区と中野区の人口にも届かないのです。景気が悪く人もいないのですから、B to C事業を展開する場所としては最悪といっていいかもしれません。

小泉内閣の公共工事縮小計画、バタバタ倒れる同業他社

そんな山陰地方で小口工事という新たな事業を伸ばすにはどうすればいいのかを考え、最初に取り組んだのが社員の意識、企業文化・風土の改革、次に行ったのが原価管理の徹底でした。小口工事では1件1件の受注額が大型案件に比べて圧倒的に低く、利益も少なくなります。個別工事原価管理を分析に活用するなどし、独自の原価管理システムを確立することで1件ごとの利益を確実に確保できる仕組みをつくりました。

 

また、リピートを増やすためにはお客さまの評価や口コミが重要です。そこで、接客のプロであるホテル業界のホスピタリティを取り入れるなど、営業パーソンや施工者の接客の質を高める取り組みも行い、地道に小口工事の比率を増やしていったのです。

 

私の危惧は的中し、2001年を皮切りに小泉内閣の公共工事縮小計画などにより大型工事の受注はどんどん減っていき、同業他社は次々と経営不振に陥りました。

 

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どこにでもある会社のどこにもない魅力 地方建設業の成功事例に学ぶ勝ち残り戦略

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荒木 恭司

幻冬舎メディアコンサルティング

経済環境が厳しい山陰地方で勝ち残るための鍵はBtoBからBtoCへの進出だった! 著者が営む建設会社は経済環境が厳しいといわれる山陰地方にありながら、毎年利益を上げ続けています。 その秘密は、著者が長年実行してきた地…

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