(※写真はイメージです/PIXTA)

山陰地方の、とある中小建築会社。先細りする収益を回復すべく生まれたのが、小口工事の需要を掘り起こす、「住まいのおたすけ隊」というビジネスでした。顧客を訪問し「困りごと」をヒアリングし、解決のための工事を地道に行い続けてきたのです。成功のポイントは「いかに顧客の潜在ニーズを発掘するか」。そのためには「聞く力」が何より重要なのです。

営業の本質=「お客さまの困りごと解決」

営業戦略を考えるにあたっては、そもそも営業とはどんな仕事なのか、その本質をしっかりと理解しておかなければなりません。

 

営業において、商品やサービスを売るというのはあくまで手段に過ぎず、営業の本質は、「お客さまの困りごとを解決する」ことにあると私は考えます。これを理解しているかどうかで、営業手法が変わってくるのです。

 

お客さまの困りごとを把握するにはまずしっかり話を聞く、すなわちヒアリングが重要になります。トーク技術に自信がある営業パーソンは多いでしょうが、実はどんな会社に行っても結果を出すような一流の営業パーソンたちは、始めは話すよりもじっくり聞くことを特に意識するものです。

 

例えばお客さまと1時間の面談をするなら、自分が話すのは15分ほどで、45分はヒアリングの時間に充てる。それくらいしっかりとお客さまの話に耳を傾けねばなりません。

 

わが社の小口工事でいえば、営業パーソンの仕事は「新しい照明器具をつけませんか」と売り歩くのではなく、「住まいのおたすけ隊」として「困っていることはありませんか」と聞いて回るところからスタートします。そこで「ああ、そういえばここにコンセントが欲しいと思っていた」「照明のスイッチの調子が悪い」というような多様なニーズを拾ったうえ、それを自社のサービスで満たすような提案を行うからこそ、やみくもに照明器具を売って歩くよりはるかに高い確率で受注することができるのです。

 

そうしてお客さまの困りごとと、自社の商品やサービスがかみ合っている場合には、契約につながりやすいですが、それだけでは不十分です。営業パーソンが「お客さまでさえ気づいていない潜在ニーズ」を探し、その解決を提案、実施することができて初めてお客さまは感動し、自社のファンになってくれます。

提案の精度を高める「ヒアリング」

わが社では、お客さまも気づいていない「隠れたニーズ」を掘り起こし、それを解決する提案営業を行っています。ここでいう提案とは、自社の商品やサービスを「こんなものがあるので、ぜひ買ったほうがいいですよ」とお勧めするということではありません。提案は、あくまで困ったことや問題を解決するために行うものです。

 

したがって、まずはお客さまがどのような悩みを抱えているのかを知らなければ提案営業はできず、ヒアリングが何より重要になってきます。

 

例えば、住まいの「困った」を聞いていくなかで、「そういえば新しく買った家具が思いのほか大きくて、リビングが狭くなった」という、一見電気とは関係なさそうな話が出たとします。部屋を見れば、真新しいソファーが幅を利かせ、テレビとテレビ台の間の通り道が狭くなっています。もしそのテレビを壁にかけることができたなら、テレビ台が不要となり、新たなスペースが生まれます。そこで、壁を工事してテレビをかけられるよう配線を通すという解決策を提案します。これが、お客さまも気づいていない隠れたニーズの発掘です。

 

隠れたニーズを見つけるのに求められるのは、営業パーソンの共感力です。お客さまの悩みを自分事として共感し、「なんとか問題を解決したい」と考えることか、潜在ニーズを引き出すきっかけです。逆に、「自分の成績を上げるために商品を売りたい」と考えるような営業パーソンでは、お客さまに不快感や警戒感を与えることが多く、本音を聞き出しにくくなるため、隠れたニーズをつかむことなどできません。

 

こうした提案営業において大きな武器となるのが、過去に営業パーソンたちがヒアリングした内容の共有です。何気ない世間話で、「そういえばあと2年で、娘が大学から実家に帰ってくる」と聞いたなら、実際にお嬢さんが戻られる前後で、部屋の増築や改修、エアコンや照明など新たな設備の導入といった工事が発生するかもしれません。

 

そのタイミングであらためて営業に行き、「困ったことはないか」と尋ねれば、きっと新たなニーズをつかむことができるはずです。これを実現するには、「お客さまサービスシステム」のような、情報管理の仕組みを構築しておくとともに、営業パーソンたちがそこにこまめに情報を打ち込むような、組織風土を作っておかねばなりません。

提案営業のできる営業パーソンこそ「最強」

小口工事においてお客さまの隠れたニーズを掘り起こすのが最も難しいといえるのが、初回訪問時です。

 

これまで会ったこともない相手に、いきなり自分の悩みや困りごとを話す人はいません。初回の訪問前に営業パーソンにできるのは、今分かる情報から仮説を立てることです。そこで大切なのが、現場での観察です。

 

例えば、庭先に胴長靴が干してあったら、その家庭に釣りを趣味としている人がいるかもしれませんし、小さな自転車があれば子どもがいるかもしれません。表札にある名前で家族構成が分かるかもしれず、車やスポーツ用品などから趣味嗜好が見て取れるかもしれません。注意深く観察することで、その家庭の情報がいくつも得られるはずです。

 

そうして情報を集めたうえで「この家の家族構成はこうで、きっとこんな感じで暮らしていて」などと、自分なりの仮説を立てて、訪問することが大切です。

 

逆に、なんの情報もないままに飛び込み営業をするなら、営業パーソンはお客さまに対し、「家の建て替えや改修の予定はありませんか」「エアコンを買い替えたのはいつですか」などと、自社の商品やサービスを売るための直接的な質問しかできないと思います。自分の身に置き換えて考えると分かりますが、初めからそんな質問を受ければ、お客さまは「何かを売りつける気だ」と身構えてしまうものです。

 

また、提案営業のためのヒアリングとして「家族構成は」「職業は」などと、プライベートに関わる質問をいきなり繰り出しても、やはりお客さまは警戒します。

 

そうした事態にならぬように、事前に情報を集めて仮説を立て、それに基づいた質問をしていくというのが、訪問営業の正しい入り方といえます。あらかじめ商品やサービスに関心があるお客さまと幸運にも巡り合ったなら、「これはいりませんか」という御用聞き営業でも、成果が上がるかもしれません。

 

しかし当然、そうした幸運が起こるのは稀です。多くの人は商品やサービスに関心をもった時点で、インターネットで検索をかけ、必要なものを注文してしまいます。

 

御用聞き営業は今後、さらにインターネットにそのポジションを奪われていきます。そうした営業パーソンの介在なしで売買が行われる市場があるのに、なぜいまだに彼らがお客さまを訪問しているのかというと、お客さまは営業パーソンからの提案を求めているからにほかなりません。

 

その意味で、提案営業のできる営業パーソンの活躍の場がなくなることはありません。経営者としては、いかに提案営業ができる営業パーソンをより多く育てるかを考えていく必要があります。
 

 

荒木 恭司
島根電工株式会社 代表取締役社長

 

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荒木 恭司

幻冬舎メディアコンサルティング

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