(※写真はイメージです/PIXTA)

山陰地方の、とある中小建築会社の責任者は、顧客から突き付けられた無茶な要求から、「行き過ぎた顧客第一主義」の問題と向き合うことになります。そもそも建設業界自体に、下請けへの過剰なダンピングや激しいパワハラが横行しており、現場で起こる問題の根本原因になっていたのです。

食事だけを目的に人生を生きる人は、ほとんどいない

会社において利益はいわば「食事」であり、それがないと活動を続けていくことができません。ただ、食事だけを目的に人生を生きる人もほとんどいないのです。

 

「企業は利益を出すために存在する」という市場原理主義は、いわば「人は食べるために存在する」と宣言しているに等しいものです。確かに食事というのは生きるうえで絶対に欠かせませんが、それが人生のすべてではないというのは、誰の目にも明らかです。

 

利益を目に見える形で表すのは数字しかありませんから、経営においては売上目標や利益目標といった客観的な指標をもつのも大切です。しかし、その設定はあくまで目的達成のための手段にすぎないということを忘れてはいけません。数字そのものが目的化すると、組織のあらゆる活動を「効率的かどうか」で判断するようになり、社員たちを売上達成のための道具として見るようになります。

 

もし、トップが社員に対し「絶対に売上を達成せよ、それができねばわが社の存在意義はない」と圧力をかけ続ければ、社員一人ひとりのやりがいが数字づくりのみになってしまい、離職率が高まってしまうかもしれません。数字をつくるために真っ当な人の道を外れてしまう人が出て、「人を不幸にする会社」をつくってしまうなどということがあっては、本末転倒です。

 

会社経営の目的は、「関わるすべての人を幸せにする」というところにあります。その本質から外れ、利益という手段が目的化してしまえば、いずれ必ず行き詰ります。活動すればするほど人が不幸になる会社など、社会としてもないほうがいいに決まっているからです。

 

利益とはあくまで多くの人を幸せにした結果得られるものだということを、経営者の方は心に刻んでほしいと思います。

「お客様に徹底して尽くすべき」という思考に疑問符

関わる人すべてを幸せにする経営、それをどのように実践していくかは会社ごとに異なります。ただ、会社のステークホルダーのなかで優先順位が存在するというのは知っておいてほしいと思います。

 

「会社の活動を通じ、真っ先に幸せにすべき人は誰か」と聞かれると、多くの人は「お客さま」と答えるかもしれません。

 

わが社でも、以前は顧客第一主義を掲げ、お客さまを最優先に考えて経営を行っていました。無理難題を叶えてこそ、お客さまがファンになってくれる。だから徹底して尽くさねばならない。社内もそんな雰囲気でした。

 

しかし2007年の元旦、次のようなことがありました。

 

当時の社長のもとに1本の電話が入ったのです。

 

「玄関の電気が切れたので、来てくれ」

 

社長からそれを聞いた私は、ひとまずお客さまの家へと向かいました。玄関の電気がつかなければきっと難儀するだろうと思ったからです。

 

しかし、いざその家に着くと、玄関の電気は煌々とついていました。

 

(あれ、おかしいな……何かの間違いだったのか)

 

お客さまに話を聞けば、玄関ではなく外にある小さな門灯の電気が点灯しないとのことでした。

 

門灯の電気が点灯しないままでも、大きな問題なく三が日を過ごせるはずです。私はそのお客さまに、「正月明けまで待ってもらえないか」と頼みました。

 

すると、その人は言いました。

 

「お前のところは、おたすけ隊だろう。客がすぐにやれと言っているのに、できないと言うのか、それでもおたすけ隊か!」

 

相手の立場でものを考えず、自分の都合ばかり押し付け、要求が通らないと怒り出すといったようなお客さまは、実はたくさんいます。

 

顧客第一主義でいくなら、こんなお客さまの要望にも対応し、正月だろうがすぐに門灯を直しに行くべきかもしれません。

 

ただ、施工を担当する社員たちもきっと正月にはお酒を飲み、のんびりと過ごしているはずです。そんな社員を、門灯の電気一つのためにわざわざ会社に呼び出すというのは、何か違うと感じました。

 

その頃から同業者・建築業者のなかで、差別化のため「24時間対応」を売りにする会社が出てきていました。確かにお客さまにとっては便利ですが、深夜に働かねばならぬ社員が出るのは、かわいそうに私には思えました。

 

(お客さまを神様として扱えば、結局はそのしわ寄せが社員に集中する。それが本当に正しいことなのか)

 

そうして考え続けた結果、私がたどり着いたのが「社員第一主義」でした。

 

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