公的機関を利用して社外人材とマッチング
社外承継の相手を探す際は、公的機関にサポートを依頼する方法もあります。その一つが、国が設置する公的相談窓口の「事業承継・引継ぎ支援センター」です。同センターは各都道府県に設置され、中小企業や小規模事業者の親族内承継や経営者保証などに関する支援を行っていて、そこには第三者承継や後継者人材バンクといった事業も含まれています。
社外承継向けのサービスとして提供される後継者人材バンクは、登録した「創業希望者」と事業引継ぎに課題を抱える「後継者不在の事業者」を引き合わせるというものです。起業と事業承継という2つの課題を同時に解消し、後継者不在の会社の後継者づくりを支援します。
創業希望者には経験や技術を生かして独立したい、事業意欲や経営意欲のあるU・Iターン希望者などがいて、エリアを気にしないで後継者候補を見つけるのに便利と言えそうです。
マッチングに至るまでは専門家のサポートも受けられるので、ニーズに合った相手先と巡り合う可能性は高いのではないでしょうか。
なお、同バンクは2020年度に全センターに開設されましたが、21年3月末時点で累計登録者数は4055者、うち134件が成約しています。全国から広く後継者候補を募るのに便利なサービスとして、認知度を高めています。
株主として間接的に経営に携わる
社内承継がそうであるように、社外承継も資金不足などの問題で、後継者が決まらないというケースが散見します。あるいは、子どもの年齢が若く、成長するまでの対策として、一時的に外部人材に経営を任せたいといったニーズもあるでしょう。
この場合、創業家に株式は残したままオーナーとなり、経営を任せるといった手段が有効です。実際のところ、社外承継ではこのスキームを採用するケースは少なくありません。
オーナーとして間接的に経営に関わる際に注意したいのは、あまり事細かに経営に口を出さないということです。外部から来た経営者が委縮してしまい、実力を発揮できなかったり、オーナーの顔色をうかがうことにより、改革を断行しにくくなったりするかもしれません。
もちろん、相談を受けたときは積極的にサポートすべきでしょうが、過保護になりすぎないよう心がけたいものです。積極的に経営に関わる必要があるなら、会長職に就くなどして、自身の立場と役割を明確にしておきましょう。
■所有と経営が分離しているからこそオーナーは経営者に気配りすること
また、自社株式を持つオーナーと経営を取り仕切る代表取締役がいるという、所有と経営が分離している状態は、経営者にとって居心地のよいものではありません。
オーナーの鶴の一声で社長を交代させられる恐れもあり、経営者とはいえ盤石な立場でないことは事実です。
不安定な状況だからこそオーナー側には気遣いも求められます。それなりの役員報酬を出すだけでなく、期間限定ならあらかじめ任期を明らかにしておくと、会社のかじ取りに専念できます。資金不足が理由の場合は報酬を多めに出し、段階的に株式を取得する流れを取り決めておけばよいでしょう。
また、報酬に関しても自社の給与体系に照らし合わせるのではなく同業他社を水準にする、社内改革や業績拡大といったミッションの達成でインセンティブを付与するといった施策も考えられます。優秀な人材をつなぎとめるには、それ相応の待遇を用意しないといけません。
現状では実施数の少ない社外承継ですが、有効な選択肢であることは、紛れもない事実です。起業を目指したい若年層も一定数はいて、中小企業や小規模事業者にとって、後継者人材バンクなどを通じて素晴らしい相手に巡り合うことができる可能性を期待できます。
瀧田雄介
株式会社M&Aナビ 代表取締役社長