「私の死後、だれが遺産を相続することになるのか?」
本日のご相談は、Aさん(82歳)です。Aさんは30歳のころに結婚し、子どもはいませんでしたが、約40年にわたり、ご主人と仲睦まじく生活して来ました。ところが10年前にご主人を急病で亡くされたとのことでした。
その後、約10年間、1人で暮らしてきましたが、少し気になることが出てきました。それは、相続についてです。
Aさんは自身の財産について、自分が亡くなったときにどうなってしまうのかがわからず、筆者のところへ相談に見えました。
子はなく、夫は亡くなり…親族は弟と姪の2人だけ
上述の通り、Aさんには子どもがいませんが、両親もすでに亡くなっています。他方、Aさんにはきょうだいが2人(Bさん、Cさん)いて、うちBさんはすでに亡くなっていますが、Bさんには1人こども(Dさん)がいます。
「夫は亡くなったし、子どももないし、当然ですが親も鬼籍です。自分の遺産は、いったいだれが相続するのでしょう?」
Aさんは不安な様子でした。
Aさんの家族構成を図表にすると、次のようなイメージになります。
Aさんの相続人はだれになるか、おわかりでしょうか?
かわいい姪に全財産を、折り合いの悪い弟はナシで
Aさんの相続について考える場合、弟のCさんだけでなく、姪のDさんも相続人となります。Dさんは、すでに亡くなっているBさんに代わり、Aさんの相続人になるわけです。このような場合を「代襲相続」といいます。
Aさんは、夫を亡くして以降、Dさんになにかと世話をしてもらうようになりました。母親であるBさんを亡くしたDさんは、Aさんを母親のように慕い、子どものないAさんもまた、Dさんを娘のように思って接して来たのです。そのためAさんも、Dさんには特別な思いがあるようです。
そのような経緯から、Aさんは、できれば全財産を姪のDさんに引き継いでほしいと考えているのです。
他方、Aさんは弟のCさんとは昔からどうにも性格が合わず、折り合いも悪く、またCさんは若いころ、お金に困るたびAさんに金の無心をしてきました。貸したお金はいまだに返ってきていません。法事等で数年に1度会う程度の仲でしたが、会って口を開けばけんかになるため、Cさんにはあまりいい感情はもっていませんでした。
そのため、AさんはCさんに一切財産を渡したくないと思っていました。
「弟が遺産の分割を主張したら、おとなしい姪は…」
しかし、Aさんには不安がありました。
「遺言書を書けば姪に全財産を渡せるのかと思ったのですが、それだと弟が姪に何かいわないが心配で…。弟は昔から自己主張が強いのですが、姪はとても優しくて反論などできないおとなしい性格なので、どうしても気になってしまって…。インターネットを調べたら『遺留分』という説明が出てきましたが、弟がこの『遺留分』を主張することなどはないのでしょうか?」
Aさんのような悩みを持ち、ご相談に来られる方は少なくありません。なお、「遺留分」を平易に説明すると、法定相続人の方が、最低限相続できると期待できる割合のことで、民法上割合が定められています。
たとえば、ある方(Xさん)が亡くなって法定相続人が子ども2人(YさんとZさん)だけだった場合、法定相続分はYさんとZさんとで2分の1ずつです。
この場合、Xさんが生前に遺言書を書き、「Yさんに全財産を相続させる」となっていた場合、ZさんはYさんに対してなにかいえないのでしょうか? このときに問題になるのが「遺留分」です。具体的には、子であるZさんは民法上、法定相続分の更に2分の1については遺留分として取得する権利があるため、2分の1の2分の1、つまり4分の1の遺留分を有します。
そのため、ZさんはYさんに対して、Yさんが相続したXさんの全財産の価値の4分の1に相当する金額について、金銭を支払うように請求することができるのです(「遺留分侵害額請求」といいます)。
きょうだいには「遺留分」がないから大丈夫!
さて、この「遺留分」ですが、今回のDさんも、Cさんから請求を受けた場合、Aさんから相続した全財産のうちの一定割合について、支払わないとならないのでしょうか。
結論をいうと、実はきょうだいには遺留分がありません。そのため、DさんがCさんから遺留分の請求を受けたとしても、Cさんには遺留分がない以上、Dさんには支払う必要がないのです。
「よかった、本当に安心しました…」
きょうだいに遺留分がないことをお伝えすると、Aさんはとても安心した様子で、姪であるDさんへ全財産を相続させるという内容の遺言書を無事作成されました。
不明確な知識が、かえって不安を増幅させる原因に…
今回の「代襲相続」「遺留分」というものは、基本的な相続知識ではあるものの、一般の方に周知されているような情報とはいえません。そのため、知識が断片的で不明確なものになりやすく、それだけでAさんのように「不安の種」になってしまいます。
ここでの事例の内容は相続の基礎的な話ですが、「代襲相続」については直系なのかどうかによっても考え方が変わり、「遺留分」についても立場によって割合に差があり、遺留分の計算方法も単純に分数を掛ければいいというものではなく、実際にはもっと様々な要素を加味して複雑な計算する必要があります。
実際にご自身の場合がどのようなパターンに該当するかは、個別ケースに応じて専門家へ相談することをお勧めします。
國丸 知宏
弁護士法人菰田総合法律事務所
弁護士
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