1億円の現金がすべて相続税に!?
今回もまた、前回、前々回の続きとなります。第7回で解説したCですが、相続した財産は貸宅地だけであり、相続税は6400万円です。したがって、Bと同様に現金一括払いは困難です。
貸宅地のもたらす収益は50万円ですが、そこから税金が引かれると40万円になるでしょう。すると、20年たっても800万円しか所得が増えません。これでは延納も困難です。したがって、Cについては、相続した貸宅地を物納申請すれば、認められる可能性が非常に高いといえます。
ここで話を相続財産の分割方法に戻すと、もし仮にAが1億円の現金を相続せずに、子どもたちに分けていたとしたら、どうなっていたでしょうか。たとえば、先ほどの兄弟間の相続の割合にしたがって、Bは6割の6000万円、Cは4割の4000万円をもらったとします。
するとこれらの現金分については、相続税の支払いにそのまま充てるよう、税務署から促されることになるはずです。つまり、貴重な1億円の現金をそのまま国に相続税として納付しなければならなかったかもしれないのです。
そのような事態を、Aに1億円を相続させたことによって防ぐことができたと同時に、なおかつ貸宅地の物納の可能性を大きく広げることができたというわけです。
このように、物納戦略を行う時には、相続財産の分け方などにも配慮しながら、相続人全員で一致団結して取り組むことが求められる場合があります。
母親に現金を渡せば老後の生活も守れる
なお、親に不動産だけでなく現金を相続させることは、その老後の生活を保障するという観点からも重要でしょう。独り身となってしまった親には、その後の生活に対する強い不安があるはずです。まとまった現金が手元にあれば、そのような不安も大きく解消されるに違いありません。
ことに最近は、子どもたちの世話になるよりも、老人ホームに入って余生を送ることを選ぶ人が増えています。老人ホームでの生活やそこで受けられる介護も、お金のあるなしで快適さが変わってきます。1億円もあれば、入居できる施設のレベルも含めて、まず満足のいくサポートを受けられるはずです。
物納申請をする際に、万が一税務署から母親に現金を全て渡した理由を問われたら、そのような意味合いのことを述べておけば、おそらくそれ以上追及されることはないはずです。