売却のタイミングで変化する「譲渡所得税」の額
土地を相続前と相続後に売るのでは、譲渡所得税の額も変わってきます。
譲渡所得税とは、土地、建物、株式、ゴルフ会員権などの資産を売却した時に得た利益に対して課される税金です。譲渡所得税の額が変わってくる理由には、「相続税の取得費加算」という仕組みが関わってきます。
譲渡所得税は、購入してから売却するまでの期間が短いか長いかによって短期譲渡所得税と、長期譲渡所得税に分かれますが、以下では、購入後から売却までの期間が長い場合、つまりは長期譲渡所得税となる場合を想定して、この仕組みについて簡単に説明しましょう。
長期譲渡所得税は、売却代金から買値(取得費)を引き、さらに仲介料、測量代、印紙代等の譲渡に伴う必要経費を引いた譲渡益に対して、20%の割合で税率がかかります。正確には、所得税15%、住民税5%で、計20%となります。
そこで、長期譲渡所得税の計算においては、買値が重要となるのですが、代々土地を受け継いできたような場合には、その額が不明であることが少なくありません。これは考えてみれば当たり前の話で、100年前、200年前、あるいはそれ以前に、先祖がいくらで土地を購入したのかなど分かる人はほとんどいないでしょう。
そのため、通常の場合、買値は基本的に「ゼロ円」とみなされることになります。ただ、このような場合、売値の5%で購入したと評価してくれるのが税務上の取り扱いになっています。
以上を前提にして、「総資産は5億円、そのうち土地が4億円を占めている」 というケースで、4億円の土地の一部を処分したところ2000万円で売れた場合に、相続発生前と相続発生後に譲渡所得税がどれだけ違うのかを検討してみましょう(必要経費は、いずれの場合も50万円と考えます)。
相続後の売却なら譲渡所得税がかからないことも
まず、相続前に処分した場合は、売値の2000万円から買値の100万円と経費の50万円を引いて1850万円となります。これが譲渡益の金額となります。
次に、この1850万円に20%をかけると370万円です。つまり、相続前に売却した場合の譲渡所得税は370万円になるわけです。
では、相続後に処分した場合はどうなるのでしょうか。まず、売値の2000万円から買値の100万円と経費の50万円を引いて1850万円となるところまでは同じです。
しかし相続後に処分した場合には、さらにここから、「相続税の取得費加算」として土地について納めた相続税も引くことができるのです。この「相続税の取得費加算」とは、相続した財産に関して相続税を納めていれば、所得税の計算上、その相続税額を取得費として認めるという制度です。ただし、この特例が使えるのは、相続税の申告期限から3年以内、つまり相続が発生してから3年10カ月以内となります。
5億円の相続財産に対して、通常、相続税は1億円かかります。
そして、土地の価値の総額は4億円であり全体の8割であることから、土地について納める相続税は8000万円になります(ただし、平成27年1月1日以降に開始する相続又は遺贈については相続又は遺贈によって取得した土地全体に対する相続税ではなく、売却した土地のみにかかる相続税しか加算できなくなり、「相続税の取得費加算」のメリットは大幅に縮減されます)。
したがって、この8000万円を「相続税の取得費加算」としてさらに引くことができることになるわけです。すると結局、1850万円から8000万円を引いてマイナスの金額になるので、譲渡益はゼロ円になります。譲渡益がないので、譲渡所得税は生じません。つまり、相続後3年10カ月以内に売却した場合の譲渡所得税はゼロ円になるのです。
このように、相続後に売却した場合には、譲渡所得税が全くかからないことになる可能性もあるのです。
納税用地は保有し続けるほうが得策!?
以上に述べたような相続税や譲渡所得税のメリットを考えると、納税用地が相続前と相続後とで同じ金額で売れるのであれば、あえて被相続人の生前に処分して金銭に換えておく必要はないといえるでしょう。むしろ、相続後に売却するほうが得策です。
もちろん、保有している間は固定資産税等の維持費が生じますし、また経済情勢によっては不動産の値下がりリスクもあるため、そのような点を考慮に入れる必要はあります。たとえば、万が一かつてのバブル崩壊の時期のように急激に土地価格が下落するような状況になれば、早々に売却して現金化する必要があるかもしれません。
しかし、そのようなケースはおそらく、あくまでも例外的なものでしょう。通常は、不動産を保有し続けるコストや値下がりリスクが相続税等のメリットを上回ることはないように思われます。