地方国企デフォルトリスクへの政策対応
国務院国有資産監督管理委員会(国資委)は2021年3月末、各地方国資委に対し、地方国企の債務リスクを対象とした初の文書となる「地方国企の債務リスクを制御する業務を強化するための指導意見」を発出。
その基本的考え方は、①地方国企全体(面)と、特に高債務国企(点)をターゲットにした「点面結合」、②地方国企改革の長期的な体制整備と、当面のデフォルトリスク管理を合わせた「長短結合」、③デリバティブやPPP(官民パートナシップ)など高リスク業務の防止と、貿易に見せかけたファイナンス(融資性貿易)の禁止などを合わせた「防禁結合」の「3つの結合」として整理されている。
具体的な指導内容は以下の通り。
①債券発行前の事前管理(高リスク企業の発行計画監視)、発行中の対応(格付け、償還見通し、経営状況の把握)、事後管理(デフォルト処理)。
②高債務地方国企毎に「一企一策」目標を設定し、負債総額と負債資産比率を管理。また、投資を控え、債券を株式に転換する「債転股」などを通じて負債を圧縮し、負債資産比率を合理的な水準に戻すよう指導。
③悪質な逃廃債(返済踏み倒し)を厳禁し、国企としての主体的責任を厳格に実施するよう地方国企を指導。
④「地方国企債務債券リスクモニター指標報告に関する通知」を発出し、国企財務快報(速報)に債務リスクモニター表、リスク債券明細表、債券債務リスクモニター指標自動計算表の3表を添付することを義務付け。
地方によってはさらに厳しい独自の措置も導入。例えば、地方国企が株式を持ち合い「リスク共同体」を形成していることに対し担保管理を徹底すること、上記「融資性貿易」が地方国企の大きなリスクになっていることから、貿易の実態のない貿易金融や貿易契約で銀行融資を受けやすくするための名義貸しを厳格に取り締まることなどだ。
デフォルトに対する意識変化
中国におけるデフォルトに対する意識は変化しつつあるのか、それを測る1つの便利な方法はデフォルト率の国際比較だ。ただデフォルト認定基準の違いに加え、発行体数と金額いずれのベースにするか、比率の分母はすべての発行体、新規発行体いずれにするかなどで様々な計算があり、同じベースでの厳密な国際比較は難しい。
下記S&Pリポートは、デフォルト率=新規にデフォルトした未格付け非金融企業債数(中国では信用債)÷年初発行体数と定義して2020年までの国際比較をしている。
世界平均他のデフォルト率が上昇傾向にあるのに対し、中国信用債には明確な傾向がなくまたその水準は諸外国に比べかなり低い。国企のみのデフォルト率を計算したものは少ないが、例えば中国地場の海通証券調査で、中国信用債全体のデフォルト率2020年1〜7月0.66%のうち、私企業3.58%、国企0.25%、また国際格付け会社フィッチ調査では、2021年37社の公募信用債でデフォルトがあったうち国企12社、デフォルト率は全体0.76%、私企業3.0%(いずれも発行体総数比)。国企デフォルト率は特に低い。
ただし多くの調査がここ3年、私企業のデフォルト率は低下傾向にある一方、国企は0.2〜0.3%の水準で横ばい、またはやや上昇していると指摘。国企は2021年にデフォルト率が上昇した後、2022年に入ってからその水準で高止まりしているという状況だろう。
国企債を中心に中国信用債の安全神話はなお根強く、資金が効率の悪い国企やLGFVに流れ、私企業は業績が良好でも高金利の「影子銀行(シャドーバンキング)」に依存するクラウディングアウトが生じ、これが特に景気下降局面で金融リスクを膨張させている。
2020年後半からのデフォルト増加の引き金となった永煤債デフォルト発生後、遼寧、貴州、山西、陝西の各省政府幹部は相次いで「債務は制御されており、市場の信頼を一層高めていく」とし、中でも山西副省長は「返済しないという考えは全く脳裏にない。自分の目を保護するように、山西の信誉を守る」と発言。
恒大問題にも見られるように、デフォルト増加が契機となって、長年指摘されてきた諸問題、特に必ず返済されるという「剛性兌付」、政府が不足分を負担しすべてを引き受ける「兜底」意識、それに伴うモラルハザードは解消される方向にはあるが、市場が完全に本来の機能を発揮するにはなお多少の時間が必要かもしれない。
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