(※写真はイメージです/PIXTA)

中小企業経営者が計画的な事業承継を進めるには、自社株の生前贈与の活用が有効です。生前贈与を利用すれば、社長が存命のうちに、後継者へ自社株を確実に移すことができるからです。後継者が決定した場合の「自社株承継対策」における、具体的で確実な生前贈与の方法を考察します。

贈与の期間が長いほど、生前贈与できる資産は多くなる

厚生労働省の簡易生命表の統計データを利用して社長の余命を推定してみます。令和2年のデータでは、65歳男性の平均余命は20.05年、70歳男性は16.18年です。社長が70歳なら、統計データからは、あと16年の暦年贈与が可能です。

 

実際に贈与する際には、株価(相続税評価額)を算出して贈与税を計算する必要がありますが、まずは社長が所有する自社株の概算値(上記の方法で大まかに推定した目安値)で、平均余命の統計データから推定した社長の余命までの期間で、自社株をどのくらい後継者に生前贈与できるか、その目安を作ってみましょう。まず目安を作ることで、おおまかな生前贈与計画を作り、実際の贈与の際に、税理士により算定された株価をふまえて生前贈与する株数を決定していくとよいでしょう。

 

暦年贈与は行える期間が長ければ長いほど、社長の資産をより多く生前贈与することができるので、早めに実施すると効果が高くなります(今後、税制改正で相続と贈与の一体課税が検討されており、暦年贈与について変更される可能性があり、今後の動向には注目しておくことが必要です)。

社長に配偶者がいるなら、2次相続までふまえて検討を

社長に配偶者がいるときには、配偶者へ資産を相続することで、相続時に配偶者の税額軽減の制度を利用することができ、1次相続での相続税負担を軽減することができます。

 

しかし、配偶者にも多くの資産がある場合には、配偶者の相続において(2次相続。社長と配偶者のどちらが先になくなるかはわからないため、社長が先に亡くなるという想定でまずは検討します)、子どもたちの相続税負担が多額にならないよう、配偶者には社長の資産を生前贈与しないことがよいでしょう。そして、社長から配偶者へどの資産を相続するのか、その内容と価額について検討することも必要です。

暦年贈与を実行した場合の「贈与税負担額」の計算事例

70歳の社長が所有する自社株(100株)の価額が3億円のケースを想定してシミュレーションしてみましょう。自社株の価額は1株300万円です(100株×300万円=3億円)。

 

後継者は45歳。この後継者に、社長の株式を毎年1株ずつ贈与することを予定します。この計画を今年実行すると、後継者は、10%の贈与税率で贈与税が課されます(特例贈与財産用の税率を利用。贈与を受けた年の1月1日において18歳以上の者が、直系尊属〈父母や祖父母など〉から贈与により取得した財産に係る贈与税の計算に使用する税率です)。

 

後継者は、社長から1株の自社株の贈与により、19万円の贈与税を負担することになります(300万円-110万円〈基礎控除〉=190万円。190万円×10%〈適用税率〉=19万円)。

 

3株(900万円)の生前贈与なら、後継者は147万円の贈与税負担となります。株価に対する贈与税額の率は16.3%となります(適用贈与税率は30%)。

 

株価は今後ずっと300万円ではないので、単純な計算にはならないのですが、社長が毎年3株を後継者に生前贈与し、それを16年間(推定する社長の平均余命)続けることで、社長の持株の半分近く、48株の自社株を後継者に移転することができます。

 

現時点で社長が所有する資産から、相続税を試算することで、後継者に何株生前贈与すると税メリットが得られるのかをシミュレーションすることはできます。贈与税と相続税の両方をあわせた税負担額を推定し、相続税対策を検討していきます。

 

暦年贈与による相続税対策は、早くから始めることが必要です。後継者が決定したらすぐに暦年贈与を実施していけば、現行の税制度の限りにおいては、後継者の税負担の面でメリットがあります。

生前贈与に伴う「課題」と「ジレンマ」

暦年贈与は、社長の判断能力がある限りにおいて実行することができます。将来において、社長の判断能力が著しく低下した場合には、自社株を生前贈与することができなくなります。そういった面からも、生前贈与は早めに実施していく方がよいでしょう。

 

また、いったん自社株を生前贈与すると、その株式については後継者のものとなります。後継者が所有する株式については、後継者が議決権を行使することとなり、生前贈与した自社株について、社長は贈与した分の議決権を失うことになります。後継者を決定しても、社長は自身の議決権を失うことには抵抗があることから、生前贈与の実施を決断できない社長も少なくありません。この点も自社株を後継者に生前贈与する際の課題です。

 

社長が亡くなるまで自社株を所有し、社長の相続時に後継者に自社株を承継することを予定する場合は、社長の判断能力が著しく低下したときに社長が議決権行使できないこと、そして後継者の相続税の納税負担が大きくなることが課題となります。

 

これらの課題を解決する方法のひとつに信託の利用があります。信託の利用方法については、以後の別の稿で言及していきたいと思っています。
 

 

 

石脇 俊司
一般社団法人民事信託活用支援機構 理事
株式会社継志舎 代表取締役

 

 

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