6月のトピック
「前年比+3.0%の消費者物価でデフレートするため、4月の実質賃金前年比は4ヵ月ぶりに減少か? ラニーニャ現象で暑い夏。今後も食品価格の値上げの影響が懸念される夏だが、消費者物価指数コア・前年比上昇率は2%台前半にとどまろう。MLBでヤンキースが好調、『鎌倉殿の13人』放送は明るい材料」
3月は原油価格上昇、5月は中国の景気悪化。調査のたびごとに入れ替わる最近の「景気腰折れリスク」第1位
「ESPフォーキャスト調査」では、20年9月から奇数月に特別調査として「3つの景気腰折れリスク」について尋ねている(図表1)。
21年9月まで1年超にわたり「新型コロナウイルスの感染状況」が第1位だった。しかし、21年11月以降は毎回第1位が変わる状況が22年5月にかけて続いている。第1位の推移をみると、21年11月「中国の景気悪化」、22年1月「新型コロナウイルスの感染状況」、3月「原油価格の上昇」、5月「中国の景気悪化」であった。5月調査では第2位が「国際関係の緊張や軍事衝突」、第3位が「原油価格上昇」である。ロシアのウクライナ軍事侵攻の影響が大きい。なお、マスコミ報道で「悪い円安」と言われることが多いので、22年5月調査では「円安」も選択肢に含まれたが、選んだフォーキャスターは3人にとどまった。
上海市では6月1日に、外出制限が事実上解除された。通常の疫病抑制段階に入り、店舗の営業再開や「低リスク」地域の労働者の職場復帰が可能になった。中国国家統計局の5月の製造業PMIが49.6と、前月の47.4から上昇した。22年5月「ESPフォーキャスト調査」では別の特別調査で「中国製造業PMI」に関し尋ねているが、22年4~6月期にPMIが50未満となる回答は34人中29人と多かった。しかし、7~9月期は2人、10~12月期以降は0人である。7月の「景気のリスク」の第1位は「中国の景気悪化」から他の項目に替わる可能性が大きいと思われる。
ESP調査「新型コロナ」回答者が過半数を割り込み、月例経済報告での「コロナ禍の影響」削除と平仄が合う
22年5月調査で「新型コロナウイルスの感染状況」と「米国の景気悪化」を選んだフォーキャスターはともに15人で第4位となった。「新型コロナウイルスの感染状況」の回答者が過半数を割り込み4位まで低下したのは、初めてのことである。景気の全体判断が「持ち直しの動きが見られる」に据え置かれた5月の月例経済報告では全体判断の表現は変更され、20年3月から触れてきた、コロナ禍が経済を下押しする影響に関する言及が2年3ヵ月ぶりに削除された。両者の平仄が合ったかたちだ。
インフレの高進とFRBの政策金利の過度な引き上げにより米国景気が悪化するという見方も一部にあるようだが、「ESPフォーキャスト調査」では「米国の景気悪化」を日本の景気腰折れリスクとみる向きは、過半数に満たない。
これまで人気球団ヤンキースが活躍した年はファンの個人消費増加などを通じて米国の成長率を下支えしてきたようだ。73年から21年までの米国経済の実質経済成長率平均は2.7%。ヤンキースがア・リーグで優勝しワールドシリーズに進出した11年分の平均は3.4%と全体の平均を上回る。さらに、ワールドシリーズを制覇した7年分の実質成長率平均は3.5%である(図表2)。
今年も現在のところ、人気球団のヤンキースがア・リーグ東地区で首位を走っている。勝率もア・リーグ全体でトップであり、景気下支え効果を期待したいところだ。
5月ロイター短観、製造業DI+5と21年2月以来の低水準。非製造業DIは+13と20年2月以来の高水準
5月ロイター短観で、製造業DI+5と21年2月以来の低水準になった。円安・原料費急騰、原燃料の入手難が利益の押し下げ要因になっている。輸送用機器は▲40で20年8月以来の低水準である。半導体不足に加え、上海でのロックダウンで部品調達が遅延している。一方、非製造業DIは+13と前月から5ポイント上昇した。20年2月の+15以来の水準に戻った。まん延防止等重点措置が3月に解除されたあと回復している。先行きDIは製造業が2ポイント悪化、非製造業も1ポイント悪化が見込まれている。7月1日発表の日銀短観の内容が注目される(図表3)。
4月分の鉱工業生産指数は前月比▲1.3%の低下だが、景気動向指数の景気判断「改善」維持の見込み
鉱工業生産指数・4月分速報値・前月比は▲1.3%と、海外需要の減少や中国でのロックダウン等の影響等を受けて、3ヵ月ぶりの下降となった。4月分鉱工業生産指数では、全体15業種のうち、8業種が前月比上昇、7業種が前月比低下で、全体では低下となった。電気・情報通信機械工業や汎用・業務用機械工業などが上昇したものの、輸出の減少、半導体不足に加え中国でのロックダウン等の影響から、電子部品・デバイス工業、生産用機械工業や自動車工業などが低下した。レモンド米商務長官が5月31日、世界的に深刻化している半導体不足が少なくとも来年まで続き、さらに長期化する恐れがあると警戒感を表明するような状況である。
鉱工業生産指数の先行きを製造工業予測指数でみると5月分は前月比+4.8%の上昇、6月分は前月比+8.9%上昇の見込みである。過去のパターン等で製造工業予測指数を修正した経済産業省の機械的な補正値では、5月分前月比は最頻値で▲0.5%の低下になる見込みである。90%の確率に収まる範囲は▲2.6%~+1.6%になっている。部品不足の影響で足踏み状態だが、6月には上昇が期待される(図表4)。4月分景気動向指数の一致CIによる機械的な景気判断は、3ヵ月後方移動平均の符号がプラスを維持するとみられ、3ヵ月連続して「改善」になろう。
WTI高値圏での推移。入着原油価格5月上旬前年比+95.9%。レギュラーガソリン全国平均7週連続値下がり
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻の影響で、原油価格は3月8日にはWTIで一時1バレル=130ドル台と08年7月以来約13年8ヵ月ぶりの高値を付け、終値も1バレル=123.70ドルになった。その後、IEA閣僚会合での石油国家備蓄放出決定、一方でOPECプラスによる追加増産の見送りなど、相反する材料が出ている。4月は終値で見て、1バレル=94.29~108.41ドルのレンジで推移、月中平均は1バレル=101.64ドルの推移となった。5月は終値で見て、1バレル=99.76~115.07ドルのレンジで推移、月中平均は1バレル=109.26ドルである。6月1日の終値は1バレル=115.26ドルになった。貿易統計で入着原油価格の動向をみると、22年3月66,886円/kl、4月83,247円/kl、5月上旬87,085円/klと上昇している。前年比は3月+61.0%、4月+82.1%、5月上旬は+95.9%になった(図表5)。
レギュラーガソリンの給油所店頭小売価格の全国平均は、5月30日時点で168.2円/ℓとなり、高止まりしているものの、燃料油価格を抑制する石油元売り会社への補助金の効果で170円を割り込んでいる。3月14日の175.2円/ℓのピークから7週連続値下がりした。
国内企業物価4月分前年比80年12月分以来の水準。消費者物価4月分+2.1%13年7ヵ月ぶりの伸び率
4月の国内企業物価指数・前年同月比は+10.0%になった。80年12月分の+10.4%以来の高水準である。4月全国消費者物価指数「総合」の前年同月比は+2.5%になった。14年10月分+2.9%以来7年6ヵ月ぶりの伸び率である。「生鮮食品を除く総合」の前年同月比は+2.1%に上昇した(図表6)。
伸び率が+2%を超えるのは消費税率引き上げの影響が残る15年3月分+2.3%以来、7年1ヵ月ぶりで、消費税増税の影響を除けば08年9月分+2.1%以来、13年7ヵ月ぶりの伸び率になった。原油価格の上昇や円安などにより、エネルギーが+19.1%上昇した。但し、ガソリンは補助金等の影響により上昇幅が縮小した(3月分+19.4%→4月分+15.7%)。「生鮮食品を除く食料」は+2.6%上昇した。特に、食用油+36.5%や食パン+8.9%などで高い上昇率になった。通信料(携帯電話)は昨年4月の引下げの効果がかなり剥落し、下落幅が縮小(3月分▲52.7%→4月分▲22.5%)し、消費者物価指数・前年同月比の上昇率を高めた。前年同月比寄与度差は+1.04%になった。今後8月分と10月分で前年同月比寄与度差が若干プラスになるとみられる。
帝国データバンクが、上場する食品メーカー105社に5月19日現在で22年以降の価格改定計画を調査したところ、8,385品目で値上げ計画が判明し、5月までに4,770品目が値上げし、6月以降3,615品目が新たに値上げする予定だと判明した。
電力大手10社中7社の家庭向け電力料金が価格転嫁できる料金上限に。ガソリンの補助金と併せ、抑制要因に
4月分全国消費者物価指数で、毎月勤労統計の実質賃金を算出する時に用いられる「持家の帰属家賃を除く総合」の前年同月比は+3.0%の上昇と、3月分の+1.5%から大きく上昇した。なお 「持家の帰属家賃」とは、自己が所有する住宅を借家だと仮定し、その分の家賃の額を市場価格で評価した「架空の家賃」である。全国消費者物価指数のウエイトは全体の15.8%で、4月の「帰属家賃」は前年同月比0.0%である。これが全体の消費者物価指数を低めに抑え込んでいる面がある。実質賃金は3月分では+0.6%のプラスの伸び率だったが、+3.0%が割り引かれる4月分は4ヵ月ぶりにマイナスに転じそうだ(図表7)。
ESPフォーキャスト調査・5月調査で、全国消費者物価指数・「生鮮食品及びエネルギーを除く総合」の前年比の予測平均値は、4〜6月期は+1.94%の上昇。7~9月期は+1.90%に鈍化、以降は24年1〜3月期+0.73%まで徐々に低下するという結果になった。一方、高位8人の予測平均値は、22年7~9月期+2.29%、10~12月期に+2.26%と高止まるが、23年1〜3月期は+1.93%に鈍化、以降24年1〜3月期の+1.31%まで低下する見込みだ。
電力大手10社が公表した7月分の電気料金はロシアによるウクライナ侵攻の長期化で火力発電用のLNGや石炭の高騰が続いており、家庭向けを4社が引き上げる。これで7社が価格転嫁できる料金制度の上限に到達した。上限を超えた分は電力会社の自己負担となる。ガソリンの石油元売り会社への補助金効果と併せ、消費者物価指数の前年同月比上昇の抑制要因になろう。
「新型コロナウイルス」関連現状判断DIは感染が落ち着くとともに改善、4月55.1に。旅行関連などに期待感
「景気ウォッチャー調査」で、4月の「ウクライナ」関連先行き判断DIは36.9と厳しい数字だが、2月の28.7、3月36.1よりは上昇した。「ウクライナ」関連現状判断DIは2月27.8、3月36.4、4月の35.6と推移している。4月の全体DI・原数値は先行き48.0、現状50.7なので、4月の「ウクライナ」関連DIの全体DIとの差は先行きで▲11.1、現状で▲15.0となり、景況感の下振れ要因になっていることがわかる。
ロシアのウクライナ侵攻の影響で、天然ガスや原油価格が上昇している。「価格or物価」関連DIを算出すると、現状判断DIは2月30.1、3月37.8、4月37.4で、先行き判断DIは2月31.4、3月33.0、4月35.3と、ともに景気判断の分岐点50を下回る弱い数字になった。コメント数は2月→4月で、現状判断が93人→178人に、先行き判断が192人か→337人へと大幅に増加した。
「景気ウォッチャー調査」の現状判断DIは21年12月では57.5と過去2番目の高水準だったが、まん延防止等重点措置発令中だった22年2月は37.7まで低下した。3月21日に発令が解除されたあとの調査期間の3月では47.8まで戻り、4月は50.4と50超になった。21年~22年4月の16ヵ月で、緊急事態宣言またはまん延防止等重点措置発令期間の調査月平均の現状判断DIは39.8、非発令月・平均は52.7である。
「新型コロナウイルス」関連現状判断DIは、2回目のワクチン接種が進み、1日あたりの全国ベース感染者数が50人~258人(NHKまとめ)と落ち着いていた21年11月が63.3で最高だった。新型コロナウイルス第6波の影響から22年1月には29.8へと急落したが、新型コロナウイルス感染が落ち着くとともに2月31.9、3月45.0、4月55.1に戻った(図表8)。また、「ワクチン」関連判断DIは3月では現状63.3、先行き67.2、4月では現状66.7、先行き66.4と、2ヵ月連続でどちらも60台と景気判断の分岐点である50を大きく上回る。
4月の「ゴールデンウィーク」関連判断DIは現状60.1、先行き58.3となった。感染防止への意識は継続しつつ、行楽の動きが景況感にプラスに働いたことがわかる。「GO TO」関連先行き判断DIは72.9である。6月から外国人の外食・旅行などの先行き改善が期待されている。政府は6月1日、新型コロナウイルスの感染状況改善を踏まえ、水際対策を緩和した。入国者数の上限を1日2万人に倍増した。ウイルスの流入リスクに応じて国・地域を3分類し、リスクの最も低い98ヵ国・地域から来日する場合は入国時検査と待機を免除する。
清盛・頼朝が登場の「大河ドラマ」放映年は、日経平均株価上昇。今年も昨年末の28,791円71銭を上回れるか
今年のNHK大河ドラマは「鎌倉殿の13人」だが、2012年の「平清盛」以来12年ぶりに平安・鎌倉時代が舞台になった。家柄や血筋がものをいう平安貴族による政治体制が崩壊し、初めて武士による実力社会の世の中になった時代である。「新しい世を切り開く」という前向きの姿勢は、視聴者に元気を与えるのだろう。「平清盛」では主役の平清盛は松山ケンイチ、源頼朝は岡田将生、源義経は神木隆之介だったが、「鎌倉殿の13人」では平清盛は松平健、源頼朝は大泉洋、源義経は菅田将暉だ。ちなみに松平健は「草燃える」で北条義時、「義経」では弁慶を演じた。
大河ドラマに平清盛が登場するとすべて日経平均株価が上昇している(図表9)。この時代を舞台に下他の作品には、66年「源義経」、72年「新・平家物語」、79年「草燃える」、93年11月~94年3月「炎立つ(第三部)(平清盛を俳優は演じなかったがストーリーの中には登場する)、05年「義経」がある。日経平均株価は6月1日の終値で27,457円89銭と21年末の28,791円71銭を下回っているが、年末には昨年末を上回る可能性が大きいのではないかと考えられる。
今夏は、ラニーニャ現象継続の影響で夏の気温が高くなり、夏物への消費の前年比がやや高めになる傾向か
気象庁が今年の初めに発表した「エルニーニョ監視速報(No.352) 令和4年1月11日」では、昨年秋からの「ラニーニャ現象が続いているとみられる。今後、冬の終わりまではラニーニャ現象が続く可能性が高い(80%)。春の間にラニーニャ現象が終息し平常の状態になる可能性が高い(80%)」とされていたが、5月12日に発表した「エルニーニョ監視速報 (No.356) 令和4年5月12日」によると、「ラニーニャ現象が続いている。夏にかけてラニーニャ現象が続く可能性が高い(70%)。その後、秋にかけてラニーニャ現象が続く可能性と平常の状態になる可能性は同程度である(50%)」に変化した。ラニーニャ現象は、当初の予想より長引き、夏にかけて続く可能性が高くなってきた。
ラニーニャ現象時には、太平洋の熱帯域で、東部で冷たい水の湧き上がりが平常時より強く、海面水温が平常時より低くなる。一方、西太平洋熱帯域の海面水温が上昇する。日本付近では、夏季は太平洋高気圧が北に張り出しやすくなり、気温が高くなる傾向がある。沖縄・奄美では南から湿った気流の影響を受けやすくなり、降水量が多くなる傾向がある。
気象庁の、6~8月からの3ヵ月予報によると、「平均気温は、北・東日本で高い確率50%、西日本で平年並または高い確率ともに40%」である。ラニーニャ現象の影響で夏の気温が高くなると、夏物への消費の前年比がやや高めになる傾向にある(図表10)。
自殺者数4月まで10ヵ月連続減少。同月失業率2.5%。大相撲夏場所懸賞1,625本6場所連続前年比増加
完全失業率と相関が高い自殺者数は、21年前半は前年同月比増加傾向だったが、21年7月~22年4月で10ヵ月連続の減少である。警察庁発表の21年の自殺者数は、21,007人で、前年比は▲0.4%の減少。22年1~4月暫定値の自殺者数は6,849人で、前年同月比▲6.4%の減少である。完全失業率は21年平均では2.8%と20年と同じになった。22年1~3月期の完全失業率は2.7%、4月分は2.5%〈2.54%〉に低下した。景気ウォッチャー調査の雇用関連の現状水準判断DI(季節調整値)は21年10月分50.4、11月分51.9、12月分54.9と改善傾向にあったが、22年1月分で45.4まで低下し、2月分47.7、3月分50.5、4月分は55.0に戻した。
刑法犯総数の認知件数は近年減少傾向にあり、昨年は56.8万件・前年比▲7.5%の減少であった。22年4月分は前年同月比▲5.9%の減少、1~4月の前年比は▲5.9%である。
JRA(日本中央競馬会)の売得金は5月29日時点までの今年の年初からの累計前年比は+8.1%の増加である。11年連続増加に向けて順調に推移している。G1レースは昨年12月5日のチャンピオンズカップ以降5月29日の日本ダービーまで15レース連続して前年比増加である。
令和4年大相撲夏場所では、横綱・照ノ富士が優勝。番付の権威さえ問われかねない大混戦となった夏場所で一人横綱の責務を果たした。15日間の懸賞は1,625本、前年比は+36.4%と6場所連続でプラスである。まだコロナ前の水準には戻っていないものの、底堅さが感じられる数字である(図表11)。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『【6月の経済動向】実質賃金は4ヵ月ぶり減少?値上げラッシュでも景気動向指数は「改善」維持の見込み』を参照)。
宅森 昭吉
三井住友DSアセットマネジメント株式会社
理事・チーフエコノミスト