よりクオリティの高い「睡眠の質」を求め、寝具へこだわる人が増えています。しかしそれに伴い、寝具業界は苦境に立たされています。消費者の価値観の多様化、安価な海外製品、日々求められる新商品の発案等で、中小の寝具メーカーはどこも疲弊しているのです。市場の変遷とともに、業界の現状について解説します。

「消費者行動・ニーズ」への対応を迫られる寝具業界

現代の日本は経済や社会制度が発展し、必要な物やサービスは満たされている「成熟社会」を迎えています。「作れば売れる」という時代はとうに過ぎ、消費者の行動は多様化しています。人によってこだわるポイントはブランド、価格、品質などさまざまです。

 

1998年に内閣府がまとめた「構造改革のための経済社会計画ー活力ある経済・安心できるくらし」には日本経済が海外からの技術導入と応用により、新製品や良質な製品を大量生産し、内外の市場に販売することで急速な発展を遂げてきたことを評価する一方で、こう警鐘を鳴らしています。

 

「新製品開発をもたらすような独創的な技術を自ら創出していかなければならないことや単にモノを製造するばかりでなく、製品・サービスの適切な組み合わせにより消費者ニーズに対応しなければならないことなど従来型の発展パターンを続けることは困難となっている」

 

さらに近年の消費者行動やニーズはインターネット普及の影響により、目まぐるしく変化しています。企業側が発信する情報はもちろんのこと、SNSなどを活用して消費者自らが情報を発信し、ほかの消費者と情報共有して購入を判断するといったプロセスが生まれました。口コミの広がり方も、インターネット登場前と比較すれば段違いの速さです。

 

そのような環境で、生産力・販売力などに限りがある中小企業が大手や海外製品との差別化を図り、生き残っていくことは容易ではないのです。

 

寝具業界も例外ではなく、多様化するニーズに対応するべく試行錯誤を繰り返してきた歴史があります。「睡眠負債」という言葉が日本のメディアをにぎわせたのは2017年のことでした。スタンフォード大学のWilliam C. Dement教授によって提唱されたこの言葉は、日々の睡眠不足がまるで借金のように積み重なって、心身に悪影響を及ぼす恐れがあることを表しています。わずかな睡眠不足でも、毎日のように積み重なって「債務超過」の状態になれば生活や仕事の質が低下するばかりか、がんや認知症、うつ病などの病気につながる恐れもあるというのです。

 

「睡眠負債」という言葉のインパクトとともに、睡眠の質に対する世間の関心も一気に高まりました。睡眠の質もまた、人間の体に影響を及ぼすことが分かったからです。厚生労働省の運営する健康情報提供サイト「e-ヘルスネット」によると、質の悪い睡眠は生活習慣病の罹患リスクを高めるそうです。

 

そのため、質の高い睡眠を求め寝具の機能にこだわる人が増えてきました。寝具店の店頭には、睡眠の質を高めるというマットレスやオーダーメイド枕の中材が展示され、割高であっても自分のスタイルに合った寝具を買い求めようとする人の関心を集めています。

 

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梯 恒三

幻冬舎メディアコンサルティング

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