(画像はイメージです/PIXTA)

独身の叔父が亡くなり、遺産を相続することになったおいめい2人。叔父は価値ある収益物件を所有する一方、事業で失敗して多額の負債も抱えています。おいは、債務を遺産の範囲内で相続する「限定承認」を提案しますが…。高島総合法律事務所の代表弁護士、高島秀行氏が実例をもとに解説します。

限定承認することで「譲渡所得税」がかかる場合も…

さて、限定承認は、遺産と債務のどちらが多いかわからない、ほかにも債務があるかどうかわからない場合に限定承認をすれば、あとで債務が多いとわかっても遺産の範囲でしか債務を負わないですむといわれています。

 

しかし、注意をしなければならないことがあります。

 

それは、限定承認をすると譲渡所得税がかかる場合があるということです。限定承認をすると、被相続人から相続人には相続されるので、相続税がかかることがあっても、売却しているわけではないので譲渡所得税がかかるとはなかなか思いつきません。

 

しかし、税法上、限定承認をすると、被相続人から相続人に対し、譲渡がなされたとして譲渡所得税が課せられることとなっているのです。

 

被相続人の取得価格について契約書などが残っていて証明できれば、現在の価格との差額に譲渡所得税が課せられ、取得価格のほうが高かったということであれば譲渡所得はないので譲渡所得税は課せられないこととなります。

 

本件では、土地も建物の取得価格を証明できるものはないということなので、取得価格は5%=500万円として計算することとなります。

 

すると、限定承認をした場合には、9,500万円に譲渡所得税15%が課せられ、1,425万円の譲渡所得税が課せられる可能性があります。

 

そうなると、債務が9,000万円と譲渡所得税1,425万円で、合計1億円を超えてしまい、結果はマイナスとなり、相続放棄と同じ結果となってしまいます。

「債務」がどれぐらいあるか、十分に調査して決定を

以上のことから、選択肢を検討していきます。

 

限定承認は、相続人全員でしなければならないことから、花子さんも限定承認をしないと、太郎さんは限定承認をすることはできません。

 

そこで、限定承認は、相続人全員でする必要があることから、花子さんを説得して限定承認をする必要があるとする選択肢①が正解で、限定承認は、単独でもすることができるから、花子さんの説得は不要だとする選択肢②は誤りとなります。

 

前に説明したとおり、限定承認をすると、債務の他に譲渡所得税がかかり、支払いが遺産の額を超えてしまい、結果はマイナスとなってしまう可能性があることから、選択肢③も正解となります。

 

花子さんが単純承認をすると、太郎さんは相続放棄をするか、単純承認をするかどちらかしか選択できません。

 

そこで、どうしても限定承認をしたいのであれば、花子さんを説得するほかありませんが、仮に説得して限定承認をする場合は、譲渡所得税の問題がありますので、事前に譲渡所得税がいくらとなるのか税理士に相談してから限定承認をするのかどうか決めることが必要だと考えます。

 

資産と負債を比べればプラスなのに、譲渡所得税を入れるとマイナスになってしまうという場合、限定承認をするかどうかは難しい問題です。

 

ほかに債務がなければ限定承認をすると損をしてしまいますし、ほかに債務が出てきた場合は限定承認をしたほうがよかったということとなるからです。

 

ほかに債務があるかどうかの調査はなかなか難しいですが、十分調査をしたうえで、限定承認をするか、単純承認をするか、はたまた相続放棄をするか決められるのがよいと思います。

 

 

※プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

高島 秀行
高島総合法律事務所
代表弁護士

 

 

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