(※写真はイメージです/PIXTA)

近年、「老化」とは、遺伝子を取り巻く環境要因(エピゲノム)が劣化して起こる現象であることが分かってきました。つまり、エピゲノムがどのような影響を受けているのかを明らかにし、劣化しないようにコントロールできれば、老化はある程度コントロールできるということです。老化のコントロールは慢性疾患の発症リスクを低減するカギでもあります。今回は、エピゲノムがどのように調節・維持されているのか、劣化を防ぐためにはどうすればいいのかを見ていきましょう。※本稿は、小西統合医療内科院長・小西康弘医師並びに株式会社イームス代表取締役社長・藤井祐介氏との共同執筆によるものです。

サーチュイン遺伝子のスイッチをオンにする方法

では、具体的に長寿遺伝子のスイッチをオンにするのに有用であると言われている方法を見ていくことにしましょう。

 

【1. カロリー制限をする】

現代は飽食の時代と言われ、肥満人口が年々増加の一途をたどっています。動物実験のレベルですが、ある程度の飢餓状態を作ってやることによって、サーチュイン遺伝子がオンになると言われています。

 

アカゲザルでの実験ですが、自由に食事を摂らせた場合と25〜30%のカロリー制限をした場合とでは、カロリー制限をしたグループで長寿遺伝子がスイッチオンになり、平均寿命が伸びたという実験報告があります。

 

ヒトでの実験でこのような比較試験はありませんが、1日1~2食にしたり、1日に食べる量を減らしたりなど、ある程度のカロリー制限をすることによって、体重、血圧、コレステロールの値が下がるということは分かっています。糖尿病、高血圧などの動脈硬化性疾患のリスク因子がある人は20〜25%程度のカロリー制限をしたほうがいいことには科学的な根拠があります。

 

ただし、非肥満者で動脈硬化のリスクがない人がカロリー制限をしたら寿命が伸びるのかどうかについての結果は出ていません。ヒトではまだきっちりとしたデータは出ていないのです。

 

ちなみに、ここでお話ししているのはカロリー制限をすることで、長寿遺伝子のスイッチがオンになり、寿命が伸びるかどうかということについてです。ダイエットの話ではありません。欧米での大規模研究では、カロリー制限するだけでは体重は減らないことが分かっています。普通に摂取カロリーを減らしただけでは、基礎代謝が下がるだけで、体重減少にまで繋がらないのです。肥満率は食物繊維の摂取量に反比例することが分かっています。ダイエットをするためには、食物繊維の摂取量を増やすことが大きなポイントになります。

 

実は、長寿遺伝子のスイッチをオンにするためには、カロリー制限をするよりもずっと効果的な方法があることが分かってきました。それは、間欠的に断食(ファスティング)をすることです。

 

たとえば、最近の流行りのファスティング法として16時間絶食法というのを聞かれた方もおられると思います。夕食を20時までに食べて、それ以後は翌日の昼まで何も食べないという方法です。昼食から夕食まで(12時から20時まで)の間は何を食べてもいいということになっています。このようにプチ飢餓状態を作ってやることで、長寿遺伝子のスイッチがオンになるという報告があります。

 

さらに16時間ファスティングでは、その間タンパク質を摂らないので、自分自身の身体の老朽化したタンパク質を分解して、新しく作るための材料にしようという機序が働きます。これはオートファジーと言われ、身体の中のタンパク質代謝を促進し、細胞の老化を防ぐ作用があると言われています。

 

確かに論理的には非常に魅力的なのですが、ヒトにおけるこれらのエビデンスはまだありません。ヒトにおいても同様であるとは言い切れないので、試す際には自己責任で行ってください。

 

【2. 運動して汗をかく】

適度な運動は、ホルミシスの代表と言ってもいいかもしれません。

 

適度の運動が健康に良いということは誰も異論はないと思いますが、どうして健康に良いのかと尋ねられると、答えに窮するのではないでしょうか。実は、運動は身体に活性酸素を発生させます。そして、その活性酸素を身体から除去しようとして、身体の防御システムが働くことが分かっています。この適度なストレスが、長寿遺伝子の働きを正しい方向に働かせるようになるのです。

 

毎日15分足らずのランニングで週に6~8キロ走るだけでも、心臓発作で命を落とすリスクが45%減り、全死因死亡率が30%下がることが示されています。

 

このことからも、いくら運動が身体に良いからといって、過度にやると、発生した活性酸素が処理しきれずに、身体を酸化させてしまいます。どんなにいいことでもやり過ぎは禁物ということです。

 

【3. 快適ではない温度に身体をさらす(低温環境やサウナなど)】

長寿遺伝子を働かせるには、快適とはいえない温度に身をさらすのも一つの有効な手段であることが分かっています。特に低温に身体をさらすことで、ミトコンドリアのエネルギー産性能が活性化されます。

 

だからといって、寒い地方に住む人の寿命が、暖かいところに住む人よりも長いということを示すデータはありません。重要なのは、限られた時間、低温環境に身をさらすということです。

 

フィンランド東部に住む中年男性2300人余りを約20年にわたって追跡調査した研究があります。ご存じの通り、フィンランドの人はサウナに入った後に、冷たい外気に身体をさらします。身体を温めた後に急激に寒冷刺激を与えることが、身体にとって適度な刺激になると考えられます。被験者のうち、極めて頻繁にサウナを利用する人(最高で週に7回)は週1回の人より、心疾患の発症率や、心臓発作で命を落とす件数、さらには全死因死亡率がおよそ2分の1になるという結果でした。どうやらサウナは、慢性疾患の発症には予防的効果があるようです。

 

ただ、この研究は病気の発症リスクは抑えられたということを示すもので、「老化を予防する」ということにはならないことに注意する必要はあります。

 

一方では、高温での刺激がサーチュイン遺伝子にプラスの影響を与えるかどうかについては、低温刺激ほどはっきりはしていません。

 

サウナファンには少し残念な結果かもしれませんが、現在のところ、高温がサーチュイン遺伝子を活性化するかもしれないというレベルで、まだエビデンスが不足しています。

 

■「適度な刺激」と「適切なタイミングでのオン・オフ」が重要

以上見てきたように、適度な刺激を適切に与えることは、身体の回復力(ホメオスタシス)を刺激し、長寿遺伝子のスイッチをオンにする可能性があると言われています。このときに重要なポイントは、①適度な刺激を与えるということと、②適切なタイミングでオン、オフにするということです。

 

①については「過ぎたるは及ばざるがごとし」ということです。②については、たとえカロリー制限がいいからと、ずっと飢餓状態にしていてもスイッチは入りません。制限するタイミングと、制限を解除するタイミングをうまく組み合わせることが重要です。運動や低温刺激も、身体にいいからといってやり過ぎはかえって身体を痛めるという結果になります。

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