(※写真はイメージです/PIXTA)

近年、「老化」とは、遺伝子を取り巻く環境要因(エピゲノム)が劣化して起こる現象であることが分かってきました。つまり、エピゲノムがどのような影響を受けているのかを明らかにし、劣化しないようにコントロールできれば、老化はある程度コントロールできるということです。老化のコントロールは慢性疾患の発症リスクを低減するカギでもあります。今回は、エピゲノムがどのように調節・維持されているのか、劣化を防ぐためにはどうすればいいのかを見ていきましょう。※本稿は、小西統合医療内科院長・小西康弘医師並びに株式会社イームス代表取締役社長・藤井祐介氏との共同執筆によるものです。

長寿遺伝子の活性化には「適度なストレス」が必要

サーチュイン遺伝子は、単に寿命を延ばすための遺伝子ではなく、身体の中のバランスを整えるために非常に重要な、そして多彩な役割を果たしているということが分かっていただけたと思います。

 

サーチュイン遺伝子からできたサーチュイン酵素が、エビゲノムを維持するという本来の役割を果たすためには、身体に慢性炎症を起こさないようにし、遺伝子の傷害の原因になる環境毒素や放射線などを避けることが重要であることは言うまでもありません。

 

それ以外に、サーチュイン遺伝子のスイッチをオンにするために有効な方法があるのかについて見ていくことにしましょう。

 

そのためには、身体に適度なストレスをかけることが必要です。なぜなら、長寿遺伝子はストレスのかかった環境を生き残るために保持されてきた遺伝子だからです。

 

身体の健康な機能を高めるために適度なストレスを与えることを「ホルミシス」と言います。

 

具体的には適度な運動や時々絶食をすること、高温や低温に身をさらす(サウナ)ことなどがあります。このような適度な刺激を与えることで、身体はそのストレスに打ち勝とうとし、悪化した環境を生き抜こうとしてサーチュイン遺伝子をオンにするのです。ちょうど、高地マラソンでマラソンランナーが低酸素状態で走り込むのに似ていますね。

 

ワクチンやポリフェノールの作用も「ホルミシス」の一種

大量に摂れば身体に有害な毒も、少量であれば身体にとって益になることがあるというのがホルミシスの基本的な考え方です。適度なストレスを与えることによって、ストレスに対しての対抗力、抵抗力が備わるのです。

 

ワクチンは、毒性を弱めた抗原物質を注射することで、免疫系を刺激して抗体を作ろうという方法なので、ホルミシスの一種であるということができます。適度な抗原刺激は免疫力を高めることが分かっています。

 

また、抗酸化物質と言われるフィトケミカルは、身体の中の活性酸素を消去するということで知られていますが、実際に摂れるフィトケミカルの量は抗酸化作用を発揮するには少ないということが分かってきました。

 

たとえばフィトケミカルの代表としては、ワインに含まれるポリフェノールが有名です。ポリフェノールは抗酸化物質の代表的な物質であると思っておられる方も多いのではないでしょうか。しかし、通常飲む程度の量のワインに含まれているポリフェノールだけでは、身体の酸化した状態を改善するのに十分な抗酸化力はないのです。ポリフェノールの作用も、実はホルミシスの一つであるというと驚かれる方も多いのではないでしょうか?

 

フィトケミカルは、本来は私たちの身体にとっては「毒」の作用を有している化学物質です。それを少量摂ることで、ホルミシスの作用が働き、身体の抵抗力を上げるということなのです。

 

腸内の悪玉菌も、実は少量だけ腸内にあることで免疫力を刺激し、次に大量の悪玉菌が侵入してきたときに備えて腸管免疫を調節しています。これも広い意味でのホルミシスであると言えるでしょう。

 

このようにホルミシスは私たちの健康を維持する上で色々な面で作用しています。そして、ホルミシス的な刺激を適度に加えることが、長寿遺伝子のスイッチを入れることになるのです。

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