任意後見契約に付け足したい「見守り条項」
前回の続きです。
≪トラブルを避けるためのワクチン接種≫
任意後見契約に関する法律(以下、本連載では「法律」と略します)4条Ⅰ項では、任意後見監督人の選任請求権者として、本人、配偶者、四親等内の親族以外に任意後見受任者も挙げられています。
しかし、これはあくまでも請求できる権利であって、請求する義務まで課しているものではありません。そこで、契約上で、任意後見受任者に任意後見監督人の選任請求義務を課すこともよく行なわれています。任意後見契約と同時にそれに先行する財産管理契約を結ぶ場合(移行型任意後見契約)の受任者は、委任者の判断能力が不十分となったら契約の趣旨からも委任された事務を行うことができなくなりますので、当然委任者の生活状況や判断能力等の低下等の健康状態を見守る必要があります。
したがって契約の中に受任者に委任者を見守る義務を課す「見守り条項」が特に設けられていなかったとしても受任者には委任者を見守る義務が生じますが、受任者にその義務を明確に認識させ遵守させるために、「見守り条項」及び、「任意後見監督人の選任請求義務条項」を付けておくことが強く望まれます。
「見守り条項」の具体的内容ですが、普通は、本件に即して表すと、Cは、Aの身上に配慮するものとし、適宜Aと面談し、ヘルパーその他の日常生活援助者からAの生活状況につき報告を求め、主治医その他の医療関係者からAの心身の状態につき説明を受けることなどにより、Aの生活状況及び健康状態の把握に努めなければならない。などと規定し、また具体的な面談等の頻度につき「月に◯度の訪問面談する」とか、「週に◯度電話連絡等により確認する」とか明示することもあります。
本件の場合は、隣人のDさんの協力も得られるなら、DさんにもA子さんのことを気遣ってもらい、Dさんと長女Cさんが容易に連絡を取り合うような環境整備を行った上で、Cさんが近所のDさんにA子さんの状況を定期的に尋ね、報告や説明を受けることを義務化したり、少なくとも風通しのいい連絡体制を作ることができたらよかったと思います。
それでも、受任者がその義務を果たすのを怠ったときの場合に備えて、任意後見受任者以外の第三者との間で委任者の日常生活の「見守り契約」を締結することも検討する余地があります。
そして、この第三者が、面談等で委任者の判断能力が低下して後見開始の期が熟していると判断した場合は、その者が任意後見監督人選任請求権者(法律4条Ⅰ項)であるなら、速やかにその請求をなす義務まで課すこともできるでしょうし、任意後見監督人選任請求権者でない場合なら、受任者等に任意後見監督人選任請求を促す義務等を課すことだって考えられます。
心配であるなら、このように万が一のことを考え、適切な時期に適切に任意後見が開始できるような体制作り、環境整備を行って備えておくべきでしょう。
適正な事務処理がなされているかどうチェックするか?
*任意後見監督人ってなんですか?
任意後見人が、判断能力の衰えた本人のために事務処理を行うについて、その事務処理が適正になされているのかどうかを、判断能力が衰えている本人自身がチェックすることは困難です。
そこで任意後見制度では、本人に代わってチェックする立場の者を必ず設けることになっています。それが任意後見監督人です。任意後見契約により後見人を引き受けた者が、その後本人の判断能力に衰えが見られたことで契約に基づき、後見人の仕事を開始するに当たっては、家庭裁判所に任意後見監督人の選任申立てをしなければなりません。この申立てがあれば、家庭裁判所は、本人の判断能力が不十分な状況にあると判断すれば任意後見監督人を選任することができます。
そして、任意後見監督人が選任されれば、その時から任意後見契約の効力が生じ、任意後見人は、任意後見監督人の監督の下に、契約で定められた範囲内の法律行為を本人に代わって行うことができることになるのです。
任意後見監督人は、任意後見人から財産の管理状況、身上監護について行った措置等の事務処理について報告させ、監督を行います。また、本人と任意後見人の利益が相反する法律行為を行うときには、任意後見監督人が本人を代理することになります。なお、任意後見監督人はその事務について家庭裁判所に報告するなどして、家庭裁判所の監督を受けることになります。