成年後見人の横領等を防ぐための契約前のチェックポイント

今回は、成年後見人の横領等を防ぐための契約前のチェックポイントを見ていきます。 ※本連載は、日本公証人連合会理事・栗坂滿氏の著書、『トラブルのワクチン―法的トラブル予防のための賢い選択―』(エピック)の中から一部を抜粋し、成年後見制度等にまつわるトラブルとその予防・解決法を紹介します。

誰が財産管理の受任者を「監督」するのか?

≪トラブルを避けるためのワクチン接種≫

法定後見における成年後見人に比べて任意後見契約における任意後見人は、任意後見監督人の存在が欠かせませんので、後見人が本人の財産を私的に流用しにくくなっているのは確かです。それでも任意後見人も自分以外の者の多額の財産を保管し管理する立場にいることは間違いなく、横領等の犯罪を起こさないとは限りません。

 

それに、移行型任意後見契約の場合は、任意後見が始まる以前の財産管理委任契約の段階では、受任者が委任者以外に誰も監督する者がいない状況にあり、しかも委任者本人が徐々に判断能力が低下してくるようになれば、本人自身による監視の目も十分に届かず甘くなり、前回挙げたケースのように受任者が委任者の財産を食い物にするおそれがあり、残念なことながらそのような不祥事が現実に起こることも少なくないようです。

後見人の選定や委任の範囲を慎重に検討

そこで、任意後見契約を結ぶにあたって、できるだけそのようなケースをなくすための手立てとして任意後見契約締結にあたって次の点をつぶさに検討することをお勧めします。

 

1.委任する相手を選ぶ際に、その者の後見人としての適格性の調査、チェックを怠らないこと

後見人の不祥事の原因の1つとして後見人の浪費的性格、射幸的性格、経済基盤の不安定性、倫理観の欠如等が挙げられ、要するに素行、行状の悪さが問題視されています。また後見人となろうとする受任者が多額の債務を抱えていたり、事業者ならその事業がうまくいっていなかったりで、さらに、抱える債務の保証人に委任者がなっていたり、委任者所有の不動産、動産等に担保が付されているといった利益相反関係に立つ関係があることも問題です。

 

したがって、受任者がこのような立場や状況にないことを調査し、慎重にチェックして適正な者に受任者、後見人となることを依頼する必要があるのです。なお、前記渋谷論文(第9回参照)によると法人後見人や市民後見人の場合に不祥事は発生していないということですのでそのことも考慮に入れるべきかもしれません。

 

2.複数の受任者、後見人を選任し、権限を共同行使することと定めておくこと

権限行使を単独の者に委ねていると、孤立しがちで、自他の区別も曖昧になり、密室性、閉鎖性が生じ、自分の好き放題にされるおそれが生じます。そこで、その危険を極力抑える手立てを講じておくことも考えるべきです。最初から後見等を複数の者に委ね、重要な財産の処分等を共同で行使しなければならないようにしておくことも検討すべきだと思います。

 

3.任意後見監督人の関与・権限を強化しておくこと

法定後見では、後見監督人が選任されているときは、後見人は民法13条1項の行為を行うについて後見監督人の同意を要するものとされています(民法864条)。しかしながら、任意後見契約に関する法律ではこの規定は準用されていません。ただ、任意後見契約においても、契約条項に例えば、「不動産その他重要な財産の権利を取得したり、失ったりすることを目的とする行為をするときは任意後見監督人の同意を要する」との規定を設けることができますので検討すべきです。

 

4.移行型任意後見契約を締結する場合に、財産管理委任契約についての委任内容を必要最低限のものに限定すること

移行型任意後見契約において、任意後見に移行前の委任段階での不祥事が特に問題になっていることから、委任段階における代理人の権限をあまり広範に与えすぎるのは考えものです。その段階では委任者本人はまだ、自分でできることは多いと思われますので、委任内容は必要最小限に絞ったり、受任者には見守り重視型の受任行為を依頼することも考えてください。

 

5.通常は後見に必要がない金銭や財産については受任者、後見人の管理する財産から除外してそれを第三者に信託すること

法定後見では、後見制度支援信託を利用するケースが増えています(成年後見関係事件の概況―平成26年1月~12月―最高裁判所事務総局家庭局)。後見制度支援信託とは、被後見人の財産のうち、日常的な支払いをするのに必要十分な金銭を預貯金等として後見人が管理し、通常使用しない金銭を信託銀行等に信託する仕組みで、平成24年2月1日から導入されています。任意後見においても、任意後見支援信託というべき信託の形を設定することが可能です。

 

基本的には任意後見監督人選任の審判申立て等があったときに発効する信託が考えられますが、移行型任意後見契約の場合の財産管理委任契約段階でも連動させて、信託の効力を生じる形の信託も考えられ、受任者の不祥事を食い止めたり、被害を最小限に防ぐ効果も期待できます。

 

このような福祉に重点を置く任意後見制度や福祉型信託契約等の制度を連動させて利用する、いわばハイブリッド契約の締結は、まだまだ活用されていないと思いますが、公証人に相談して結んでおく価値があると思います。

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    徳島公証役場 公証人 芦屋大学 客員教授

    京都府出身。関西大学法学部卒業後、1983年検事に任官。以後、大阪、京都、神戸、広島など関西、西日本の高検・地検を中心に勤務し、京都地検公判部長、広島高検刑事部長等を経て、2011年神戸地検尼崎支部長を最後に退官。同年公証人に任じられ、徳島地方法務局所属公証人として活動を始める。
    現在、市民生活にもっと溶け込んだ有益な公証業務の普及を図るべく日常業務の他、講演活動、執筆活動に携わっている。

    著者紹介

    連載公証人が教える「成年後見制度」をめぐるトラブル事例と予防策

    本連載は、2016年8月1日刊行の書籍『トラブルのワクチン―法的トラブル予防のための賢い選択―』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

    トラブルのワクチン ―法的トラブル予防のための賢い選択―

    トラブルのワクチン ―法的トラブル予防のための賢い選択―

    栗坂 滿

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