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任意後見契約の効力を発生させるための条件

今回は、任意後見契約の効力を発生させるための条件を見ていきます。 ※本連載は、日本公証人連合会理事・栗坂滿氏の著書、『トラブルのワクチン―法的トラブル予防のための賢い選択―』(エピック)の中から一部を抜粋し、成年後見制度等にまつわるトラブルとその予防・解決法を紹介します。

離れて暮らす一人娘と任意後見契約を結んだA子さん

≪トラブルの事案≫

京都に住むA子さん(78歳)は、2年前に夫のB男さんが亡くなってから一人で暮らしていました。子どもは一人娘のCさんがおりましたが、既に嫁いでおり、東京で暮らしていました。

 

A子さんは、6年前にB男さんとも話し合って、将来自分たちの判断能力が衰えた場合に備えて2人とも娘のCさんとの間で任意後見契約を結んでいました。幸いB男さんは亡くなるまで認知症を発症しなかったため娘のCさんはB男さんの任意後見人としての役目を果たすことはありませんでした。

 

ところが、A子さんはB男さんが亡くなってから徐々に認知症が出てきたようなのです。しかしながら、娘のCさんは最近A子さんに会いに来ておらず、連絡も怠りがちなためA子さんの状態を十分わかっていないようなのです。

 

A子さんのお隣のDさんも心配しているのですが、Dさんは、A子さんが娘のCさんと任意後見契約を結んでいることなど全く知らない上、Cさんの連絡先まではわからず、A子さんに聞いてみるのですが要領を得ないので困っています。

 

このままでは悪い業者や詐欺の集団に食い物にされるのでないか心配し、法定後見開始の審判申立てが必要でないかと民生委員と相談しているところです。

活用できなければ、任意後見契約も宝の持ち腐れに・・・

≪トラブル診断≫

任意後見契約は、契約を締結すれば、それで直ちに効力が生じ受任者が任意後見人として職務を行えるというものではありません。任意後見契約は、委任者が精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な状況、すなわち判断能力が不十分な状況になった場合に、その生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を委任者に代わって受任者が行えるよう委任し、受任者が引受ける契約であり、委任者の判断能力が不十分にならないうちは、委任者自身が自分で事務を行えますので受任者(後見人予定者)が事務を代わって行う必要はなく、まだ後見人の仕事は始まらないのです。

 

そして、委任者の判断能力が衰えてきたときは、受任者(後見人予定者)が本人を代理して事務を行う必要が生じてきますので、家庭裁判所に後見人の監督を行う任意後見監督人(次回で説明します)の選任の申立てをし、任意後見監督人が選任されれば後見人の事務を行えることになります。

 

本件の場合、B男さんは長女Cさんと任意後見契約を締結しましたが、生涯を終えるまで判断能力が低下することはなかったため、結局、任意後見受任者の長女Cは、B男さんの任意後見人として事務を行うことはありませんでした。

 

しかし、A子さんの場合は、任意後見契約締結後に判断能力の低下が見られたのですから、いよいよ任意後見人の出番がきたといえます。そこで、家庭裁判所に任意後見監督人の選任請求をし、任意後見監督人さえ選任されれば、長女Cさんは、母親A子さんのために契約で定められた種々の代理行為ができるはずだったのです。

 

ところが本件では、A子さんとCさんが遠隔地に暮らしていたためCさんもA子さんの心身の状況、判断能力の低下を把握することができず、その手続きが見逃されたことにより、折角の任意後見契約が宝の持ち腐れとなってしまったように思います。

徳島公証役場 公証人 芦屋大学 客員教授

京都府出身。関西大学法学部卒業後、1983年検事に任官。以後、大阪、京都、神戸、広島など関西、西日本の高検・地検を中心に勤務し、京都地検公判部長、広島高検刑事部長等を経て、2011年神戸地検尼崎支部長を最後に退官。同年公証人に任じられ、徳島地方法務局所属公証人として活動を始める。
現在、市民生活にもっと溶け込んだ有益な公証業務の普及を図るべく日常業務の他、講演活動、執筆活動に携わっている。

著者紹介

連載公証人が教える「成年後見制度」をめぐるトラブル事例と予防策

本連載は、2016年8月1日刊行の書籍『トラブルのワクチン―法的トラブル予防のための賢い選択―』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

 

 

トラブルのワクチン ―法的トラブル予防のための賢い選択―

トラブルのワクチン ―法的トラブル予防のための賢い選択―

栗坂 滿

エピック

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