判断能力が衰えたとき、身近に頼れる人はいるか?
≪トラブルを避けるためのワクチン接種≫
お年寄りを悪質商取引から守るには、身近にそのお年寄りのことを親身になって考えてくれる人が存在することが不可欠だと思います。
富士見市の事案では、高齢者の姉妹は2人だけで暮らしており、近所付き合いもあまりなく地域のコミュニティが希薄な状態だったようです。そのため、悪質な業者に次々と狙われ、被害が膨れ上がって行ったと思われます。
それでも、わずかに救われるのは、希薄なコミュニティの中とはいいながらも不審に気づいて市に通報してくれた近所の人がいてくれたことです。そして、それが切っ掛けとなって、姉妹の自宅の競売が中止され、成年後見人が選任されたのです。
このことから見ても、行政的な対策としては、お年寄りを取り巻く環境の整備・改善が必要なのは当然ですが、私たちが個々的に取っておくべき対策は、もし自分が将来的に判断能力に衰えがみられたときに、周りに頼るべき存在が見当たらない事態が予想されるなら、そうなる前に早期に手を打って、任意後見契約により、そのような場合に自分の後見人となってくれる人をあらかじめ選任しておくことだと思います。
自分自身のことは最後まで自分で決めておきたいと思う人は多いと思います。そのような自己決定権を尊重したのが任意後見制度です。
任意後見人は、後見人となってもらえる人(法人でも構いません)との間で、公正証書によって任意後見契約を締結することで選任することになります。この制度をうまく活用する人が増えれば、悪質業者の餌食になるお年寄りの数も減ることが大いに期待できます。
法定後見人と任意後見人は権限もできることも異なる
ただ、ここで一つだけ留意しておくことがあります。それは、家庭裁判所が選任する法定後見人は、本人の財産管理に関する全ての法律行為を行うことができ、そのため、本人に代わってリフォーム詐欺など悪質な業者との間に締結した契約を取消すことができますが、任意後見人は、当然には取消権を行使できるとは限らないということです。
つまり、任意後見人が本人に代わってできる代理権の範囲は、任意後見契約の内容によって決められますので、例えば、本人の生活・療養看護に限って任意後見契約を締結した任意後見人は、それ以外の契約に関する締結や解除等の代理行為を行えません。
そのため、将来的に悪質なリフォーム詐欺や訪問販売などの被害に遭ったときに対処して財産管理についても任意後見人に代理してもらうことを考えるならば、任意後見契約締結に際して、住宅の増改築・修繕に関する請負契約や訪問販売等の各種取引の申込みの撤回、契約の解除及び契約の無効、取消しの意思表示についても代理して行えるよう手当てし、さらに、万が一訴訟等の紛争になった場合にその紛争の処理についても代理して行えるようにしておくべきです。
場合によっては、特にお年寄りが被害に遭いそうな訪問販売や通信販売等の取引を列挙して、その取引申込みの撤回や契約の解除、契約の無効、取り消しの意思表示、更にこれに基づく各種請求事務等についても任意後見契約書に添付される代理権目録に記載しておくことも良いのではないかと思います。
任意後見契約締結の際には、この点も公証人とよく打ち合わせて万全な公正証書を作成してください。