早期解決が難しい、高齢者の家賃滞納
日本社会の高齢化に伴い、一人暮らしの高齢者の住人が家賃滞納をつづけ、住宅オーナーが法的処置をとり強制執行を命じるという事案が、社会問題化しています。
このような事案がなかなか早期解決に至らないのには、大別して2つの理由があります。
1つ目は、オーナーが法的処置に出ることを逡巡するためです。強制執行にいたった場合に、役所に相談して支援を受けることが可能ですが、「独り身の高齢者を自宅から追い出すことはなるべく避けたい」と、苦悩する家主の声が聞かれます。
2つ目は、家賃滞納をしている賃借人が話合いに応じない場合、または、応じたうえで支払い困難という結論にいたった場合には、家賃契約を結んだ際に連帯保証人としてサインをした人に支払い義務が生じるためです。
高齢の居住者は居住期間が10数年以上に及び、当時の連帯保証人とは疎遠になっているケースも多分にあるため、滞納分の回収は困難を極めます。連帯保証人を見つけ出し、多額の滞納分、原状回復分の支払いが求められていることを納得してもらう必要があるのです。
このようにこうした事案で首尾よく進む場面は皆無に思われますが、いざ裁判が始まると順調に判決までたどり着きます。「被告」である滞納者が裁判に出廷せず、答弁書による主張も行わず、「原告」の主張どおりにそのまま進む場合が多いからです。
高齢者による家賃滞納の嘆かわしい理由
滞納者、オーナー、連帯保証人…どの立場の人も深く傷つく悲しい事案ですが、そもそも「家賃滞納」の原因にはどういったものがあるのでしょうか。
こうした経済問題は、生活を支えることのできない年金受給額の少なさなど、社会保障の問題もあります。
加えて、単身者の場合には、自分では気づきにくい病気が発見されることなく悪化してしまい、ADL(日常生活動作 Activities of Daily Living)が困難ななか一人で暮らしをしていることがあります。
例えば、認知症やうつ病などの精神疾患。また、脳梗塞などによる無表情や言語障害、失語症などは、「性格」「加齢からくる気難しさ」と軽率に片づけられ、気に留めてもらえずに孤立してしまう。さらに、孤立することで持病の発見・診断・治療が遅れ、悪化してしまうという悪循環に陥ってしまいます。