(※写真はイメージです/PIXTA)

いまや日本人の3人に1人が脂肪肝であり、放置すると肝硬変や肝がんへと進行する――。にわかには信じられないことかもしれませんが、これは最近の研究で明らかになった事実です。なぜ脂肪肝が肝硬変や肝がんへと繋がりうるのでしょうか? 最近の研究でわかってきた事実を基に見ていきましょう。みなと芝クリニック院長・川本徹医師が恐ろしい「炎症」について解説します。

慢性炎症は全身に「飛び火」する

慢性炎症が体のどこかで起きていると、他の臓器にも影響することが分かっています。

 

歯周病を例にすると分かりやすいと思います。歯周病は、歯周組織(歯の機能を支持する周囲の組織のことをいう)における歯周病菌の感染で発生する慢性炎症で、重症化すると歯がグラグラしてきて抜けてしまう病気です。

 

歯周病が進行すると歯周病菌が歯肉の上皮を破って血管に入り込み、全身を巡り始めます。本来なら無菌状態である血管が、歯周病菌によって汚染されてしまうのです。この状態は、医学用語で「菌血症」と呼ばれます。歯磨きで出血する人は菌血症を引き起こすと考えられます。

 

ただし通常は、細菌が入り込んでも、免疫細胞に捕まって速やかに排除されるので大事には至りません。しかし加齢とともに免疫機能が弱くなってくることで体の防御メカニズムがうまく機能しなくなり、細菌を十分排除できなくなる恐れがあります。

 

また歯周病はそのままでは自然に治ったりしないものなので、口の中を清潔にしておかないと初期段階である歯肉炎となり、その後も歯周病へと進行していきます。大量の炎症性物質が分泌され続けている状態です。歯周病が悪化した歯や歯茎では、歯周病菌が出す毒素によって炎症性物質(炎症性サイトカイン)が作られ、歯周病菌と炎症性物質の両方が、食事の際にものを噛むだけでも血管へと入り込むようになります。そのような状態になると血管壁が傷つけられ、動脈硬化の発症につながることが分かってきました。

 

菌血症(血流中に細菌が存在しているという状態である)は、血管の老化を進める要因の一つとなるだけでなく、動脈硬化から狭心症や心筋梗塞を引き起こすこともあります。そのほか糖尿病を悪化させ、脳梗塞や誤嚥性肺炎、リウマチ、がんなどの病気とも関連があることが指摘されています。

 

歯だけの問題だと思っていた歯周病が、じわりじわりと全身に広がって、あちこちで新たな疾患につながってしまうことが慢性炎症の恐ろしさです。

 

■実際、歯周病治療によってNASH患者の肝機能の数値が改善

歯周病は、20歳以上の約8割がかかっているといわれるほど有病率の高い慢性疾患です。10年ほど前に、この歯周病がNASHの発症に関与しているとの報告が出ています。

 

この研究では、NASHの患者の口腔内の唾液を調べたところ歯周病菌のなかでも悪玉菌であるジンジバリス菌の保菌率が高く、5割にも及ぶことが分かりました。さらに興味深いのは、悪玉菌が見つかったNASH患者らに歯周病治療をしてもらったところ、肝機能検査の数値であるALTとASTが改善したそうです。歯周病治療により炎症が治まり同時にNASH進行の原因も取り除かれたと考えられます。

 

つまり歯周病菌が血液中に入り込み、それが肝臓にまで到達することで再び炎症が起こり、その刺激が元になって、NASHの病状が進んでいくと考えられています。

 

歯周病は国民病といわれるほど有病率の高い慢性疾患ですが、定期的に歯科医院などで治療や経過観察を続けることで予防することができます。

 

 

川本 徹

みなと芝クリニック 院長

 

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※本連載は、川本徹氏の著書『死肪肝』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

死肪肝

死肪肝

川本 徹

幻冬舎メディアコンサルティング

沈黙の臓器、肝臓。 「気付いたときにはすでに手遅れ」を防ぐために――。 臨床と消化器がんを研究し、米国テキサス大学MDアンダーソンがんセンターでがん治療の最先端研究に携わった著者が、脂肪肝の基礎知識とともに肝…

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