NAFLDは「全身のさまざまな病気」につながる
NAFLDと関連が高いものとして、肥満、Ⅱ型糖尿病、脂質異常症などのメタボリック症候群に含まれる各疾患があります。最近では、脂肪肝を放置すると肝硬変や肝がんといった深刻な肝臓病だけでなく、全身のさまざまな病気につながることも分かってきました。
例えばNAFLDでは心・血管疾患(心筋梗塞や脳梗塞など)を発症する頻度が高いとされています。NAFLDになると、心・血管疾患の原疾患となる高血圧症、脂質異常症、糖尿病を合併症として発生する頻度が30〜50%と高い確率で増えていくと考えられています。
日本人の死因の1位は、悪性新生物(がん)です。NAFLDやNASH患者で肝がん以外のがんでは、男性で大腸がん、女性で乳がんの発生頻度が増加するという報告や、大腸腺腫(大腸ポリープ)が1.5〜1.7倍に増加するという報告があります。
大腸がんや乳がんは、もともと高脂肪食を食べる肥満者に多いという欧米の統計があります。内臓脂肪が関与していると想定されていますが、詳しいメカニズムはまだ分かっていません。
とはいえ肥満はがんにとってよくないことが分かっています。
英国人524万人を対象にした追跡調査によると、22種類のがんのうち特に大腸がん、肝がん、胆嚢がん、膵臓がん、子宮がん、腎臓がんなど17種類のがんは肥満の影響を受けやすいという結果になりました(※)。
脂肪肝だからといって発がん率が高いということではありませんが、がんにならないためには肥満や脂肪肝への対処が重要だといえます。
※一般社団法人 日本癌学会「肥満とがん」
NAFLDはアルツハイマー病発生のハイリスク要因
長寿社会が進むにつれて、認知症患者が増えていることは広く知られています。実はNAFLDがアルツハイマー型認知症発生のハイリスクとなることも分かってきているのです。
認知症の多くを占めるアルツハイマー型認知症では、脳内で作られるタンパク質の一種であるアミロイドβが蓄積することが原因の一つといわれてきました。
アミロイドβとは、老人斑(加齢に伴い神経毒性の強いタンパクが脳内に異常に凝集し沈着するしみ)の大部分を構成するたんぱく質の一種ですが、実は健康な人の脳にも存在します。健康な人の脳では通常は脳のゴミとして短期間で分解排出されます。
アルツハイマー型認知症になるまでに、症状が現れる25年ほど前からアミロイドβがたまり始めるといわれています。
一方インスリン抵抗性は、脳におけるアミロイドβの蓄積と相関関係があることが分かっています。
脂肪肝やⅡ型糖尿病発症の原因として、インスリン抵抗性が関与しています。ちなみにNAFLDがあると、Ⅱ型糖尿病を合併する率は47.3%にのぼります。
インスリンは血糖値を下げます。インスリンが体内で役目を果たしたあとは、インスリン分解酵素という酵素の働きにより分解されます。このインスリン分解酵素は、アミロイドβを分解する働きももっているのです。
ところがインスリン抵抗性があることで血糖値がなかなか下がらなくなり、体はインスリンの量を増やします。するとインスリン分解酵素はインスリンの分解に忙しく、アミロイドβの分解にまで手が回りません。その結果、アミロイドβが蓄積していくと考えられています。
つまり脂肪肝を長期間放置することで、認知症の発症リスクが上昇することもあり得るのです。だからこそ早いうちから予防や対策に努め脂肪肝を放置しないことが大切です。
NAFLD患者の治療方針としては、生活習慣の改善が第一となり、肥満者ではまず7%の体重減が勧められています。一方で肥満でなくても、20歳になった後に10kg以上の体重増加がある場合や、最近10年以内に5kg以上の体重増加がある場合にはNAFLDになりやすいので、やはり体重減少が重要です。
川本 徹
みなと芝クリニック 院長
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