(※写真はイメージです/PIXTA)

心不全は、進行度によってステージA~Dの4段階に分けられます。ステージA・Bはいわば心不全を発症する前の予備段階、ステージCは心不全を発症した段階、ステージDはいわゆる最終局面です。心不全は一度発症すると治りません。だからこそ発症前の予備段階で、次のステージに進ませないための対策を講じることが重要です。今回は「2次予防」について詳しく見ていきましょう。心疾患・心臓リハビリの専門医・大堀克己氏が解説します。

「心不全の予兆」にいち早く気づくことが重要

ステージB:心肥大や心拍出量の低下など、心臓の働きに異常が見られる。心不全の原因になる心筋梗塞、弁膜症、心筋症、不整脈などを発症している場合も。放置するとステージCへ移行し、ついに心不全が現れることになる
【図表】心不全のステージごとの予防 ステージB:心肥大や心拍出量の低下など、心臓の働きに異常が見られる。心不全の原因になる心筋梗塞、弁膜症、心筋症、不整脈などを発症している場合も。放置するとステージCへ移行し、ついに心不全が現れることになる

 

2次予防の目的は「ステージCへ進ませない」、すなわち心不全を発症させない、ということです。心不全を発症する前の、最後の砦(とりで)といえます。

 

心不全を発症させないためにも、心不全の予兆にいち早く気づく必要があります。そのため、定期検診や人間ドックを受けることが大切です。

 

ただし、一般的な健康診断で心不全の発症リスクを明確に把握することは困難です。なぜなら、心臓の異常は常時起こっているわけではなく、「たまたま健康診断のときは正常に動いていた」という場合は、心電図などで異常を発見することができないからです。

 

■心臓に異常がなくても、心不全につながる危険因子はこれだけある

血液検査や尿検査を行うことで、高血圧、脂質異常症、糖尿病の有無が分かります。これらの疾患を発症している場合には、血管が動脈硬化を起こしやすくなっているため心不全が引き起こされる可能性が高まります。

 

また、身長や体重、腹囲などを計測することで肥満度(BMI)が分かります。肥満は生活習慣病につながりやすく、また、肥満の人が生活習慣病を起こすと血管に負荷が掛かり心不全をはじめ心疾患のリスクが増加します。

 

一般的な健康診断で心不全そのものを見つけることは困難かもしれませんが、そのリスク要因を見つけ、間接的に防ぐことはできます。また、自分の健康状態を数値化し、目で見て確認することは、生活習慣の振り返りにも役立ちます。年に1回の健康診断は習慣にするべきです。

50歳以上の人、危険因子がある人は心臓ドックを推奨

もっとはっきり心不全の予兆を把握したいという人には、心臓ドックがあります。心臓ドックとは、心臓の状態や冠動脈の危険度を調べるとともに、心筋梗塞や弁膜症、不整脈などの心疾患を調べる検査です。動脈硬化の危険因子があるか、全身の動脈硬化はどれくらい進んでいるかなど、心臓の現状を総合的に評価します。

 

主に、検査は心臓MRI検査、心エコー検査、心電図検査、心筋マーカーなどで構成され、通常の健康診断で行うメニューよりもはるかに精度の高い結果を得ることができます。心不全の多発年齢が60歳以上の高齢者であることを考えると、目安として50歳を過ぎたら、一度は心臓ドックを受けてもよいと思います。50歳以下であったとしても、高血糖や高血圧、脂質異常症といった生活習慣病をすでに指摘されている人、肥満気味の人は心不全のリスクが高いため、心臓ドックで念入りに検査をするべきです。また、近親者に心疾患を発症した人がいる場合も、念のため、受けたほうがよいと思います。

50歳を過ぎたら「1日1回の血圧測定」を習慣化

毎日、自宅で血圧や脈拍を計測している人は少なくありません。1日1回体重計に乗るのが日課、という人も多いです。それはとても良い生活習慣です。

 

特に血圧は、心不全の予兆を見つけるのに非常に重要な指標です。

 

50代や60代なら「収縮期血圧(上の血圧)が130、拡張期血圧(下の血圧)が80」を目安に考えるとよいです。もしこれを上回った場合でも、その期間が1〜2日程度であればたいてい問題ありませんが、血圧が高い状態が1週間くらい続いたら、一度病院で診てもらうほうがよいと思います。特に、拡張期血圧が100を超える状態が続いたら、早めに医師の診察を受けるべきです。

 

人間は誰でも、年齢を重ねると血圧が上がります。それは加齢に伴う変化なので、通常はあまり心配いりません。しかし、自分の血圧に無頓着であったり過信したりするのは危険です。実際、高血圧になっているにもかかわらず、「若い頃はいつも血圧が低めだったから大丈夫」と油断している高齢者は少なくありません。

 

また、「このめまいは、血圧が低いせいだ」と自己判断して油断していたら、実は血圧が高いことが原因だった、ということもあります。

 

高血圧は、自分では自覚しづらいものです。気づいたら高血圧が進行していた、ということのないように、50歳を過ぎたら1日1回、計測することを習慣にするとよいでしょう。

 

血圧の計測器は多くの場合、脈拍も自動で調べることができます。朝、起きがけに血圧と脈拍を計測しノートなどにメモしておくと、あとで体調が悪くなったとき、いつ頃からその兆候が見られたかなど、医師に伝えるときに役立ちます。

「夜間の頻尿・多尿」は要注意

そしてもう一つ、日々の健康管理として気を付けるべきなのが睡眠です。特に、就寝中にどれだけトイレに起きたか、回数に注意します。

 

なぜなら、心不全の早期には、夜間の頻尿や多尿が認められることが多いからです。

 

なぜ心不全になると眠っているときにトイレの回数が増えるのかといえば、就寝中は心臓から腎臓へ送られる血液の量が急激に増加して、大量の尿が作られるからです。

 

通常、心臓はポンプの働きをしていて、人間が立っているときは頭から足の先まで血液を送るため、活発に活動しています。しかし寝ているときは、せいぜい20~30cm程度の高さまで血液を送れば十分です。そのため、腎血流量が回復して尿量が増えるのです。

 

夜間の尿量が昼に比べて多いと感じる、あるいは夜中に2~3回必ずトイレに起きる、というような場合は、早めに泌尿器科や内科、循環器科に相談するべきだと思います。

 

 

大堀 克己

社会医療法人北海道循環器病院 理事長

 

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本記事は、大堀克己著『心不全と診断されたら最初に読む本』(幻冬舎MC)を抜粋・再編集したものです。

心不全と診断されたら最初に読む本

心不全と診断されたら最初に読む本

大堀 克己

幻冬舎メディアコンサルティング

心不全と診断されても諦めてはいけない! 一生「心臓機能」を維持するためのリハビリテーションと再発予防策とは? “心疾患・心臓リハビリ”の専門医が、押さえておきたい最新の治療とリハビリテーションを解説します。

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