再発と増悪を防ぐ「3次予防」
■いったん症状が改善しても、自己判断で服薬をやめると…
心不全を発症し、慢性化した状態になっているのがこの頃です。一般的に急性心不全で入院すると、投薬などによる治療が行われ、いったんは症状が改善します。その安定した状態を長く維持し、心不全の再発や急性増悪を防ぐことが、3次予防の目的です。
そのためにはまず、信頼できる医師の診断を受けること、そして指示された薬をしっかりと飲み続けることが大切です。時々「症状が落ちついてきたから、もう薬を飲まなくていいだろう」と、自己判断で服薬を中断してしまう人がいます。しかし、これはとても危険です。
特に、慢性化した心不全には薬物療法が非常に有効であり、「心臓を保護する薬」「心臓を強くする薬」「症状を軽減する薬」など、目的に応じて多くの薬を使い分けます。そのため、いったんは症状が落ちついたように見えても、まだ薬の助けを借りなければならないことが多く、自己判断で服薬をやめてしまうと、それまで落ちついていた症状が悪化してしまうこともあるのです。
急性心不全を発症し、病院での治療の結果無事に退院しても、禁煙を続けたり減塩など食事に気を付けたり、感染症を予防したりなどの自己管理はとても大切です。特に、心不全は肥満や糖尿病など生活習慣病に起因することも多いため、「心不全はこれまでの悪しき生活習慣の結果である」といっても過言ではありません。
ということは、心不全を発症する前と同じような生活習慣を続けていたのでは、また心不全を発症してしまうかもしれないのです。これまでの生活習慣を見直して悪いものはキッパリやめ、生まれ変わったかのような気持ちで、心臓に負担の少ない生活を送ることが大切だと、私は思います。
それから、病院などの医療機関において3次予防策として行われるのが、「心臓リハビリテーション(心臓リハビリ)」です。これは、心不全をはじめとする心臓病の患者が体力を回復させ、家庭生活や社会生活へのスムーズな復帰を目指すものです。病気のあとは誰もが自信を喪失したり、体力を落としたりします。そこで、心臓リハビリを行うことで速やかにそれらを取り戻し、心臓病を発症する前の生活へ復帰することを目指すと同時に、再発や再入院も防止します。
心臓リハビリは運動療法や学習活動、生活指導、相談(カウンセリング)などを含みます。
治らない病気だからこそ、発症前の兆候を見逃さないで
■息切れ、胸の痛み、むくみ、夜間の頻尿…「心臓のSOS」はさまざま
心臓は機能が衰えてくると、きちんとSOSの合図を送ります。それは息切れだったり胸の痛みだったり、手足や顔のむくみだったり、夜間の頻尿だったり、さまざまです。
そうした微候を見逃さずにきちんと対処することで、心不全の発症を防いだり、悪化を予防したりすることができるのです。
特に高齢者の心不全は、息切れなどの症状があっても、「年齢のせい」と放置しているケースも目立ちます。しかし、万が一心不全だった場合は早期発見のチャンスをみすみす見逃すことになりますし、進行してからでは治療は困難になってしまいます。
そのため、「いかにSOSを早く見つけ、速やかに治療を始めるか」が何よりも大切なのです。
では、どんなときに「これは心臓のSOSかもしれない」と疑えばよいか、まずは「これまでできていたことが、できなくなったとき」です。例えば、階段をひと息で上れたのに、途中でゼイゼイと息が切れるようになったときは、心不全の可能性があります。
年齢を重ねると誰でも足が上がらなくなったり、体力が衰えたりして、「今まで簡単にできていたことができなくなっていた」という状況になりがちです。しかし、こうした変化は、ある日突然起こるわけではありません。「この間までこの距離を軽く歩くことができたのに」「これくらいの荷物は簡単に持ち歩くことができたのに」など、体の変化を急速に感じたら、一度、かかりつけ医に相談するべきです。
また、「疲れやすい」「食欲がなくなった」「夜、寝ている間に何度もトイレに起きるようになった」などは一見、心臓とまったく関係がなさそうな症状であるため、心不全と結び付けて考えることは難しいかもしれません。しかし、これらは心不全の初期症状のうち、代表的なものです。
自己判断で「大丈夫」「気のせい」などと片付けず、念のため、かかりつけ医の診察を受けるのがよいと思います。
特に、これまで心筋梗塞や弁膜症、不整脈などの心臓病を発症したことのある人は、心不全の微候に敏感でいるよう心掛けるべきです。また、高血圧、糖尿病、脂質異常症、肥満などの人、喫煙、過度の飲酒、塩分の取り過ぎが気になる人、運動不足の人、過労の人、ストレスの多い人も、心不全のリスクが高くなります。「自分は心不全を発症するリスクが高い」ということを自覚して、定期的に心臓の検査を受けるなど、日頃から健康を気遣いながら、心臓からのSOSを見逃さないようにすることが大切です。
大堀 克己
社会医療法人北海道循環器病院 理事長
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