「京ことばには、耳に流れてくる優雅さには似合わない〈毒舌針〉が仕込まれている――」京都在住60年、巧妙かつ恐ろしい言語戦略と、はんなり優雅な物腰が同居する「京都ジン」を見聞きし、体験してきた文筆家の大淵幸治氏が、本格的「京ことば」について解説します。本記事は「ええ加減にしときよし」「あんた、大概え」の意味を探ります。

【ええ加減にしときよし】

聞き分けのない子はどこにもいる。大抵は親の躾けがなってない。

 

それこそ、あばたえて(暴れ回って)、どうしようもないクソガキは「しばきまくる」ほかないのだろうが、他人の子を無闇にしばきまくるわけにも行かない。なぜかなら、そうした手合いは、しばけばしばくほど泣きわめき、手が付けられなくなるからだ。

 

だから、我慢に我慢を重ねて、そのクソガキを睨みつけているほかないのだが……。そうして挙句の果ては、その親からはさも憎しみの籠った眼で「ほら、あのおっちゃん、怒ったはるで。ええ加減にしときよし」と、いとも他人ごとのようにシャーシャーと悪者扱いされてしまうのがオチなのだ。

 

情けないことに、隣のおっちゃんや向かいのおばちゃんは、子どもにとって自分を叱る怖い存在なのだと、インプリンティングされる。こうした社会的遺伝子を通じて成長した京都っ子は、そのほとんどがワガママで、手の付けられない大人になる。

 

ワガママいっぱいで好き放題に生きてきた人間は、親に叱られた経験がないので、周囲の人間がバカに見える。さもなければカボチャの類いだ。

 

そしてそのカボチャが自分を非難でもしようものなら、親にも叱られたことがないのに、なんでお前ごときが俺に説教するのだ――とばかり逆怨みする。

 

その被害妄想的執念は、幼少時から培われているので、拭い去ることはできない。親以外の語り掛けはすべて、彼にとって自分に敵対する悪巧み者の仕業なのである。

 

だから、相手が金持ちのボンボンであった場合、好きにさせておくしかない。

 

…好きなだけしてエエよ

 

あまりにも天衣無縫(てんいむほう)に育てられたバカ息子は、長じてどうしようもない大人になる。

 

その根幹には被害妄想的執念が潜んでいるのだが、その責が自分にあることに気づいていない。そればかりか他人のせいにしようとさえするのである。

 

それとまったく同じメに遭った知り合いがいる。彼は何度もそのバカ上司に得意先の進行確約をとってこいといわれ、その都度打診したが快諾は得られなかった。

 

なぜなら、その仕事はこちらから提案したものであり、得意先としては、その仕事がいつ完成しようが知ったことではなかったからだ。

 

業を煮やしたその上司、当月の売上ノルマに達しないものだから、俺がその見本を見せてやるとばかり、鼻息も荒く電話をかけた。長時間の電話交渉の末、上司が知り合いの所にやってきていった。

 

A:あれな、先方から連絡あるまで、ちょっかい出さんといて。

B:なんでですか、今月の売上にするいうてはったやないですか。

A:いや。ちょっと無理や。

B:やっぱり駄目でしたか。

A:そらそうや。相手の都合無視して、急かしたお前が悪い。

B:え。それがどうしてわたしの責任になるんです。

A:ええか。商売は自分の都合でモノいうたらあかん。

 

まさに恐るべしは京都ジンの変わり身の速さだろう。その速さは人後に落ちない。

 

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※本記事は、大淵幸治氏の著書『本当は怖い 京ことば』(リベラル社)より一部を抜粋・再編集したものです。

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