高齢のご婦人が「足腰立たんようにしばき倒しときますわ」と…【本当は怖い京ことば】

「京ことばには、耳に流れてくる優雅さには似合わない〈毒舌針〉が仕込まれている――」京都在住60年、巧妙かつ恐ろしい言語戦略と、はんなり優雅な物腰が同居する「京都ジン」を見聞きし、体験してきた文筆家の大淵幸治氏が、本格的「京ことば」について解説します。本記事は「きつきつ堪忍え」「しばき倒しときますわ」の意味を探ります。

【きつきつ堪忍え】

京では男も女も同じ言葉を使い、性差はない。だが、男もすなる日記ではないが、純然たるおんな言葉もないではない。表題の「~え」がそうだが、これは男はあまり使わない。もし使ったとしたら、あっち系のひとだと思われるだろう。

 

いまでいう「オネェことば」だ。

 

だが、わたしの管見ではここ五十年ほどは、これと「~しなさい」という意味の「~しよし」以外のおんな言葉は聞いたことがない。おそらく「京のおんな言葉」として歴然としているのは、これくらいしかないのではないだろうか。

 

だから、表題は京女性の用いる表現ということになるが、ここにある「きつきつ」という副詞が女性言葉であることを如実に物語っている。関西に多い冗語のひとつだが、このように同じ語を重ねていうことで、言明の度をさらに強める。

 

聞き手はこの言葉を聞くことで、話者が本気で謝っている、もしくはそう思わせようとしていると感じるはずだ。「ほんまに堪忍え」といわれるのと、「きつきつ堪忍え」といわれるのと、いずれが本物(のおんな)らしく聞こえるだろうか。

 

勘のいい読者には、後者の女性が両手を擦り合わせて、あなたに申し訳なさそうな表情で拝むようにしている様子が浮かんでいることだろう。

 

そこには、「ほんまに」と発語した女性との年齢の差までが見えているに違いない。

 

しかも、仄かな色香まで漂ってくるではないか。それほどに、京おんなの使う「きつきつ」は効果絶大なのだ。読者が女性なら、ぜひ一度お試しあれ。

 

…本気で謝ってますのえ

京のおんなは気が強い。うち気ィ弱いさかい――というのは嘘っぱちだ。

 

ご存知のように京都ジンの言明は、そのほとんどが反対の意にとっていい。お馴染みのパターンでいうと、「考えときます」が「考えません」であるのと同様、気が強いからこそ、弱いフリをして相手を油断させるのだ。

 

だから、京おんなのその手に引っかかってはならない。

 

京の言語戦略はなかなかに手強いし、なまなかなことでは手に入る代物ではない。だからこそ、わたしのように辛酸をなめた経験者による辛口の京口語教本が必要になるのだが、これを読んだからといって、一朝一夕に習得できるというものではなく、この地に住んで体験し、実感して初めて体得できるものなのである。

 

文字を読んで知った知識はいずれ忘れる。それに対し実際に体験して身に染みた知識は血肉と化し、運転技術のように無意識に蘇ってくる。

 

パチンコ好きの重村さん。友人の親切な忠告もあらばこそ、それにも懲りず、何度か口説いて彼女とデートの約束を取り付けた。喜び勇んだ重村さん。待ち合わせ場所で、彼女を二時間待った。が、ついにそこには現れなかった。

 

その翌々日、店に現れた彼女に文句をいうと「ごめーん、あの日は先約があったんやけど、気ィ弱いさかい、よういわんかったんや。きつきつ堪忍え」だった。

 

やはり、実際に体験してみなければ、耳から得た知識や忠告は血肉と化してはくれないもののようである。

 

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富山の山奥に産し、京は西陣の上七軒にて生長。立命館大文卒。コピーライターや編集者としての経験をもとに80年代後半から唱え始めた〈意匠ことば学〉の見地から京都ジンの言語生理を読み解く。京に住いすること半世紀以上に及ぶ「非」京都人としてユニークな京都人論、京ことば論を唱える。2000年に上梓された『丁寧なほどおそろしい「京ことば」の人間関係学』は京都本ブームの先駆けとなった。

著書に『国彩化時代のニホンゴ』『気の弱いひとのエーゴ』『京都文化ジン類学』『ハダカの京都解体新書』などがある。

著者紹介

連載「おうち、面白いひとどすな」本当は怖い、京ことば

※本記事は、大淵幸治氏の著書『本当は怖い 京ことば』(リベラル社)より一部を抜粋・再編集したものです。

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