北部・南部とも価格は上昇、1平米/8億VNDの物件も
ここからは実際の市場の状況について検証していきましょう。
地場中堅デベロッパーグループ、Dat Xanh Servicesの2022年第一四半期レポートによると、ハノイのマンション平均市場価格は1平米あたり4,500万VND(約26万円)で、前四半期と比較して約5%の上昇がみられました。
一方、ホーチミン市のマンション平均市場価格は1平米6,400万VND(約36万円)を記録し、前四半期と比較して約9%価格が上昇しています。したがって、ホーチミン市の平均マンション価格は、ハノイと比べて、少なくとも1平米あたり約1,900万VND(約10万円)高いことになります。
ハイエンドクラスの不動産に目を向けてみると、ハノイ、ホアンキエム中心部から5km強離れているタンスアン区のThe Crossroadsにあるハイエンドプロジェクトの価格は、3,500万VND(約20万円)から4,500万VND/m2(約25万円)となっています。
ホーチミン市では、中心部から半径5km以内で多くのプロジェクトが進んでおり、販売価格は1平米あたり7,500万VND(約42万円)から9,000万VND(約51万円)と、価格が高騰しています。また、中心部から約10km、旧2区のハノイハイウェイ通りにある数棟のマンションは、1平米あたり4,000万VND(約23万円)から5,000万VND(約28万円)で取引されています。
さらに、ホーチミン市中心地のマンションは、ベトナム不動産市場取引で史上最高額となる、1平米あたり10億VND(約566万円)で売り出されました。ここまでとはいかずとも、ホーチミン市の多くの高級マンションは、1平米あたり7億VND(約396万円)から8億VND(約453万円)といった価格帯で取引されており、このクラスの物件を見つけることは難しくはありません。
不動産価格の上昇に見える、不穏な先行き
この絶え間ない不動産価格の上昇は、不動産市場に一定の影響をもたらしています。
とくにホーチミン市では、コロナ以前の2018年頃から開発プロジェクトライセンスの取得が厳粛化され、許認可取得の長期化や、中心地及び中心地近郊での建物高さ制限などが実施されました。その結果、市場に供給される物件が急激に減少し、需要と供給のバランスが崩れることとなりました。なかでもプロジェクトのマンション供給不足により、現在でも新規販売価格が上昇し続けています。
ベトナム不動産価格の水準は、現在の供給不足の状況下ではさらに上昇し続けると予想されており、不動産市場では絶えず新しい価格帯が設定されています。そのため、住居を求める人達にとっては家を買うことがより困難になっています。
今後、実需の需要が低下し始めれば、流通市場での購買力が冷え込みにつながり、結果として、価格の高いプロジェクトを供給している投資家(開発会社)の販売にも影響が出てきます。
現時点の不動産市場は、政府や銀行から不動産投機を「引き締める」動きがより明白になっています。銀行が不動産融資の信用を引き締めたことにより、明確に示されていませんが、「投機家や転売家が不動産市場の減速を心配し、損切を行っている」とのリスク予測がされています。
Pham Minh Chinh首相は先月、不動産、証券の分野における違反と監督と検査を強化するよう地方省庁に要請しました。これは、不動産市場が供給価格と販売価格の双方で悪影響の発生を制限するために厳密に管理される必要があることを示しています。
このように、ベトナム不動産市場の先行きは怪しくなっています。
しかし、すべての不動産市場がこのようになっているわけではありません。先述した通り、都市部の不動産市場は高騰しているため、一部の人たちにしか手が届きませんが、都市部周辺、近隣の衛星省などの、まだ手の届く価格帯の物件は依然として人気があり、取引も活発化しています。とくに都市部からのインフラ整備が計画されている地域や、すでにインフラ整備が実施されている地域では取引が盛んに行われています。
都市部同様にこのまま価格上昇が続けば、市場が崩壊することは容易く予想されますが、現時点ではまだまだ流動性も活発であるため、見極めは難しいものの、時間の問題であるのは間違いないといえます。
以上のようにベトナム不動産市場はリスクを踏まえての投資段階に入っています。
日本から投資をする場合、為替の影響を顕著に受けるため、気軽に投資できる市場ではなくなっています。
それでもチャレンジしたいという人は、投資物件を慎重に吟味し、インフラ整備が整う見込みがあり、なおかつ採算が取れる物件を狙うしかないといえます。
徳嶺 勝信
VINACOMPASS Co., Ltd.
General Director
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