仮想通貨取引口座が、不正利用の被害に…「免責特約」の効力はどこまで及ぶか【弁護士が解説】

仮想通貨取引口座が、不正利用の被害に…「免責特約」の効力はどこまで及ぶか【弁護士が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

仮想通貨の取引口座のパスワード等が流出したため、第三者によって不正利用された被害者が「損害は取引業者が負うべき」と訴えましたが、敗訴しました。裁判にあたっては、銀行の免責条項に関する裁判例を参考としたと想定されますが、仮想通貨交換業者と銀行の注意義務には、まだ開きがあるといえます。日本橋中央法律事務所の山口明弁護士が法的目線から平易に解説します。

アカウント不正利用は「口座利用者の責任」と明示

東京高裁令和2年12月10日判決(金融・商事判例1615号40頁)は、仮想通貨交換業者が提供する仮想通貨の取引等に関するサービスにおいて、その利用者のアカウントが不正に利用され、第三者によって行われた仮想通貨の送付に関係する取引について、当該サービスに係る利用契約中の免責条項の適用により、「当該取引の効力は当該利用者に及ぶ」、つまり、アカウントの不正利用による被害は、取引業者が負うものではなく、口座利用者の責任であると判示しました。

 

本判決において、

 

「本件規約5条2項(筆者註:免責条項をいう)は、民法478条の適用により登録ユーザーに損害が生ずることになった場合に、被控訴人がその責任を負うことがない旨を規定したものと解するべきであると主張する。

 

しかし、本件規約には、本件規約5条2項が適用される前提として民法478条が適用される必要があるとの解釈を導くような文言は一切規定されておらず、本件規約5条2項にいう『パスワードまたはユーザーIDの管理不十分、使用上の過誤、漏洩、第三者の使用、盗用等による損害』は、第三者によるパスワード等の盗用によって行われた取引の効力が登録ユーザーに及ぶからこそ生ずるものに他ならないというべきである。

 

したがって、同条項は、登録ユーザーのパスワード管理が不十分であったこと等を原因として第三者がパスワードを盗用して行った取引について、被控訴人のセキュリティ管理に問題があり、盗用されたことの主たる責任が被控訴人に存在するような特段の事情が認められる場合を除き、その効力が当該登録ユーザーに及ぶことも定めるものと解するべきであり、控訴人の上記主張は採用することができない。」

 

旨、判示されています。

一方、銀行の預金約款の場合は…

なお、銀行の預金約款でも上記と同じような免責条項が設けられているところ、その効力について、

 

「判例・通説は、銀行が預金者大衆の信頼を基礎とする公益的存在であることに鑑み、約款の解釈として、銀行の無過失を免責のための要件としており、結果的に478条の適用と重なり合うことになっている。」

 

奥田昌道・佐々木茂美「新版債権総論下巻」1047頁(判例タイムズ社・2022年)

 

とされています。

 

実際に、

 

「この規定は、Yが、当該振込請求者が権限を有すると信じたことにつき過失がある場合にまで免責を認める趣旨のものではなく、インターネットバンキングを利用した振込に際して、社会通念上一般的に銀行に期待される注意義務を尽くしている必要がある。」

 

とした上で、

 

「Yは、振込の請求者が正当な権限を有するか否かを機械的、形式的に判定されるものである本件サービスを提供するに当たり、全体として可能な限度で、本件システムを、無権限者による振込等を排除しうるよう、構築し管理していたといえる。」

 

とし、

 

「本件振込送金を実行するに当たり、Yに過失があったということはできない」

 

と判断しました(東京高裁平成29年3月2日判決)。

 

以上のような銀行の免責条項に関する裁判例を参考にして、ユーザー側は、仮想通貨における免責条項においても、民法478条が適用される旨の主張をしたものと思われますが、本判決については、そのような主張を排斥し、被控訴人のセキュリティ管理に問題があり、盗用されたことの主な責任が被控訴人に存在するような特段の事情が認められる場合を除き、免責条項を有効と判断しています。

 

そのため、仮想通貨交換業者が提供する仮想通貨の取引等に関するサービスについては、判決文を見る限り、銀行に期待されるのと同様の注意義務は課されていないように見えます。

 

しかし今後、仮想通貨取引が銀行取引と同じくらいに社会に定着したときには、相応の高度な注意義務が課される可能性は十分にあるものと思われます。

 

 

山口 明
日本橋中央法律事務所
弁護士

 

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※本記事は、日本橋中央法律事務所の「note」より転載・再編集したものです。

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