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1.概観
【株式】
4月の主要国の株式市場は概ね下落しました。米国株式市場は、米連邦準備制度理事会(FRB)による金融引き締めが加速するとの見方から長期金利が大幅に上昇したことや、中国の新型コロナウイルス対策の都市封鎖(ロックダウン)により世界経済の減速懸念が高まったことなどを受けて、下落しました。欧州の株式市場は、ロシアに対する経済制裁がユーロ圏経済を下押しするとの見方やインフレ抑制のためECBの金融政策正常化が前倒しで進むとの見方から総じて軟調に推移しました。日本の株式市場は、米国株式市場の下落や中国経済の減速懸念を嫌気して、反落しました。中国株式市場では、感染拡大に伴うロックダウンが嫌気され、中国本土市場の上海総合指数、香港ハンセン指数ともに下落しました。
【債券】
米国の10年国債利回り(長期金利)は、パウエル議長やFRB高官がインフレ抑制のため金融引き締めに一段と前向きな姿勢を示したことで、市場では予想を上回るペースで利上げを見込む向きが増え、大きく上昇しました。ドイツの長期金利は、欧州中央銀行(ECB)の金融政策正常化の前倒し観測やウクライナ危機に伴う資源高を受けて大きく上昇しました。日本の長期金利は、日銀の連続指値買いオペによりほぼ横ばいでした。
【為替】
円相場は、米長期金利が上昇して日米金利差が一段と拡大したことなどから、対米ドルで大きく下落し、129円台半ばで終了しました。
【商品】
原油価格は、ウクライナ危機に伴う欧米諸国の制裁によりロシア産原油の供給が減少するとの観測が強まり、上昇しました。
2.景気動向
<現状>
米国の2022年1-3月期の実質GDP成長率は前期比年率▲1.4%となりました。内需は底堅いものの、輸入の急拡大がマイナスに寄与しました。
欧州(ユーロ圏)の2022年1-3月期の実質GDP成長率は前年同期比+5.0%となりました。資源高や感染拡大で前期比は+0.2%にとどまりました。
日本の2021年10-12月期の実質GDP成長率は前期比年率+4.6%となりました。緊急事態宣言が解除されたことで個人消費が回復しました。
中国の2022年1-3月期の実質GDP成長率は前年同期比+4.8%となりました。ただし、ロックダウンの影響により3月以降は減速しているとみられます。
豪州の2021年10-12月期の実質GDP成長率は前年同期比+4.2%となりました。経済再開を受けて個人消費が堅調でした。
<見通し>
米国は、ウクライナ危機による原材料高や消費者物価上振れに伴う家計の実質所得目減りが消費の抑制要因となるものの、雇用情勢が堅調なことから、国内需要は大崩れはしないとみられます。金融引き締めが進むなかでも米景気は底堅く推移する見込みです。
欧州は、ウクライナ危機に伴うエネルギー高、銀行部門のロシア向け与信の棄損、企業のセンチメント低下などで減速感が強まる見通しです。ただし、コロナ危機からの回復局面であることに加えて、財政措置(EU復興基⾦を含む)が⾒込まれるため、景気減速に歯止めがかかるとみられます。
日本は、1-3月は新型コロナ感染急増を受けマイナス成長が見込まれるものの、4-6月以降は感染状況改善や経済対策効果を背景に、プラス成長に転じる見通しです。ただし、ウクライナ危機による資源高や中国のロックダウンの影響による下押し圧力から、景気回復のモメンタムは緩やかなものになりそうです。
中国は、感染拡大による一部都市のロックダウンの影響で減速が見込まれます。ただし、全人代で2022年の経済成長について5.5%とやや強気の成長目標を設定していることから、景気対策を発動するとみられるため、年後半の景気は持ち直すと見込んでいます。
豪州は、感染拡大の影響で1-3月は景気回復が足踏みするものの、4-6月以降は堅調な成長が続くと想定しています。豪州の輸出品目である石炭や天然ガスなどの価格上昇による貿易黒字の増加が見込まれ、ウクライナ危機の影響は限定的とみられます。
3.金融政策
<現状>
FRBは、3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)でフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を0~0.25%から0.25~0.50%へ引き上げ、ゼロ金利を解除しました。パウエル議長は記者会見で、「早ければ次回5月の会合」で保有資産を縮小する量的引き締め(QT)を決めると表明しました。また、FOMC参加者が示した見通しによると、2022年は0.25%を1回として計7回の利上げ予想が中央値となりました。ECBは4月の理事会で、主要政策金利を据え置く一方、量的緩和政策の縮小(テーパリング)を続け、7~9月期に終える見通しを明らかにしました。日銀は4月の金融政策決定会合で、大規模な金融緩和策を維持し、10年物国債を無制限に買い入れる指し値オペを毎営業日実施することを決めました。
<見通し>
FRBは、インフレ抑制姿勢を強め、年内のFOMCごとに利上げを実施すると想定しています。5月、6月、7月、9月に0.50%の利上げ、11月、12月には0.25%の利上げを行い、来年にかけ3%をやや上回る水準まで政策金利を引き上げると見込んでいます。また、量的引き締め(QT)は5月に開始すると予想します。ECBは、エネルギー価格の上振れによるインフレ抑制のため、7~9⽉にテーパリングを完了すると共に利上げを開始するとみています。その後四半期に1回程度の利上げを行う見通しです。一方、日銀は、物価が相対的に低位にあるなか、現行の大規模金融緩和を継続する見通しです。
4.債券
<現状>
米国の10年国債利回り(長期金利)は、3月末の2.32%から大きく上昇し、4月末は2.88%で終了しました。パウエル議長やFRB高官がインフレ抑制のため金融引き締めに一段と前向きな姿勢を示したことで、市場では予想を上回るペースで利上げを見込む向きが増え、債券売りが強まりました。一時2.9%台を付け、2018年12月以来の高水準となりました。ドイツの長期金利は、ユーロ圏の3月消費者物価上昇率が上振れたことで、ECBによる金融政策正常化の前倒し観測が強まり、大きく上昇しました。日本の長期金利は、日銀の連続指値買いオペによりほぼ横ばいでした。投資適格社債については、投資家のリスク回避姿勢から国債と社債の利回り格差が拡大しました。
<見通し>
米国の長期金利は、FRBの金融引き締めが加速するものの、FF金利先物市場が示す大幅利上げをある程度織り込んだ水準と考えられるため、上昇は一服し、もみ合う展開を予想します。欧州の長期金利は、ロシアのウクライナ侵攻に伴うインフレ圧力により、ECBが金融政策の正常化を進めるとみられるため緩やかに上昇し、その後はもみ合う展開を予想しています。日本の長期金利は、日銀の大規模金融緩和策と指値買いオペが継続されるため、低水準での横ばい推移が続くと予想します。
5.企業業績と株式
<現状>
S&P500種指数の4月の1株当たり予想利益(EPS)は236.1で、前年同月比+22.0%(前月同+27.8%)と15ヵ月連続のプラスとなりました。一方、TOPIXの予想EPSは152.1で、伸び率は同+31.0%(前月同+33.3%)でした。4月の米国株式市場は、FRBの金融政策が一段とタカ派化する中で、米10年国債利回りが月初の2.3%台から月末には2.9%近辺まで上昇したことなどから、ハイテク株を中心に大きく値を崩す展開となりました。5日にハト派で知られるブレイナードFRB理事がインフレ抑制のためにバランスシートの縮小を急ぐべきと発言しました。また、6日に公表された3月FOMC議事要旨ではバランスシートを毎月950億ドルのペースで縮小する方針や、複数回の0.50%の利上げの可能性が示唆されました。21日にはパウエルFRB議長が5月FOMCで0.50%の利上げの可能性に言及しました。NYダウは前月比▲4.9%、S&P500種指数は同▲8.8%、ナスダック総合指数は同▲13.3%でした。一方、日本株式市場は米金融引き締め加速が懸念され下落しました。ただ、28日に日銀が金融政策の現状維持を決定したことでドル円が130円を超える円安となったことが下支えとなり、下落幅が縮小しました。日経平均株価は前月比▲3.5%、TOPIXは同▲2.4%となりました。
<見通し>
S&P500種指数採用企業の22年1-3月決算は55%の企業が発表しました(29日現在)。増益率(当期利益)は前年同期比+10.1%で、発表した企業のうちの約8割が事前予想を上回っています。ただ、大幅な減益となる企業も多く、企業間で業績のブレが大きくなっています。一方、TOPIX採用企業の22年1-3月期の決算発表はまだ2割弱の銘柄数にとどまっていますが、増益率(当期利益)は前年同期比+68.3%です(QUICK集計、29日現在)。米国はいよいよ利上げ局面が本格的にスタートします。株式市場は利上げをかなり織り込んではいますが、人件費の上昇やエネルギー価格の高止まりなどコストの上振れが懸念されます。22年は企業の収益力が厳しく吟味されることになりそうです。
6.為替
<現状>
4月の円相場は対米ドルで大幅に下落しました。前月末に121円台だった円は、米長期金利の上昇で日米金利差が大きく拡大したことから、円売りに拍車がかかり、月中旬に128円台まで一方向で下落しました。月末には、日銀が金融政策決定会合で、長期国債を無制限に買い入れる「指し値オペ」を毎営業日実施すると公表し、長期金利の上昇抑制の姿勢を明確に示したことを受けて円安が加速し、一時2002年4月以来の131円台を付けました。しかし、短期間で急落したこともあり、持ち高調整の買い戻しが入り、129円台で終了しました。一方、円は対ユーロでは136円半ばで終了し、小幅な円安となりました。ECBの金融政策正常化の前倒し観測などから欧州の長期金利は上昇したものの、ウクライナ危機に伴う欧州経済の景気下押し懸念から、ユーロが対ドルで大幅に下落したためです。また、円は資源国通貨とされる豪ドルに対して、前月末の91円台から92円台に下落しました。
<見通し>
円の対米ドルレートは、緩やかな下落を予想します。米利上げ観測に伴う日米の金融政策の方向性の違いや原油高による日本の貿易収支悪化から、当面円安圧力は継続するとみられます。ただし、2022年央以降は米国の景気とインフレがピークアウトする見通しであることから、米ドルの上値は徐々に抑制されてくるとみています。円の対ユーロレートは、緩やかな下落を予想します。ユーロは、欧州復興基金による景気回復やインフレ上昇によるECBの金融政策正常化観測などから徐々にレンジを切り上げるとみています。また、円の対豪ドルレートも緩やかな下落を予想します。ウクライナ危機に伴う資源価格の堅調推移が豪ドルをサポートするとみています。
7.リート
<現状>
4月のグローバルリート市場(米ドルベース)は下落しました。パウエル議長やFRB高官がインフレ抑制のため金融引き締めに一段と前向きな姿勢を示したことで、利上げが予想より大幅になるとの見方が強まり、世界的に長期金利が大きく上昇したことが嫌気されました。また、FRBの引き締め加速やウクライナ危機による投資家のリスク回避姿勢を受けて、株式市場が下落したことも逆風となりました。S&Pグローバルリート指数(米ドルベース)のリターンは前月末比▲5.0%となりました。一方、為替効果がプラスに寄与し、円ベースは同+1.4%となりました。
<見通し>
米国リート市場は、FRBによる金融政策の大幅な引き締めが意識されるものの、長期金利がすでに大幅に上昇したこともあり、金利上昇をある程度織り込んでいるとみられます。利上げが行われても、米国経済は堅調さを維持すると想定していることから、米国リート市場は底堅く推移する見通しです。欧州リート市場は、短期的には地理的に近いウクライナ危機を懸念して上値の重い展開を想定しますが、中長期では財政支出による景気回復とともに上昇を予想します。日本リート市場は、新型コロナウイルスの感染減少を受けた経済再開の動きから上昇するとみています。アジア・オセアニアリート市場は、景気回復に伴いシンガポール中心に上昇するとみています。
8.まとめ
<債券>
米国の長期金利は、FRBの金融引き締めが加速するものの、FF金利先物市場が示す大幅利上げをある程度織り込んだ水準と考えられるため、上昇は一服し、もみ合う展開を予想します。欧州の長期金利は、ロシアのウクライナ侵攻に伴うインフレ圧力により、ECBが金融政策の正常化を進めるとみられるため緩やかに上昇し、その後はもみ合う展開を予想しています。日本の長期金利は、日銀の大規模金融緩和策と指値買いオペが継続されるため、低水準での横ばい推移が続くと予想します。
<株式>
S&P500種指数採用企業の22年1-3月決算は55%の企業が発表しました(29日現在)。増益率(当期利益)は前年同期比+10.1%で、発表した企業のうちの約8割が事前予想を上回っています。ただ、大幅な減益となる企業も多く、企業間で業績のブレが大きくなっています。一方、TOPIX採用企業の22年1-3月期の決算発表はまだ2割弱の銘柄数にとどまっていますが、増益率(当期利益)は前年同期比+68.3%です(QUICK集計、29日現在)。米国はいよいよ利上げ局面が本格的にスタートします。株式市場は利上げをかなり織り込んではいますが、人件費の上昇やエネルギー価格の高止まりなどコストの上振れが懸念されます。22年は企業の収益力が厳しく吟味されることになりそうです。
<為替>
円の対米ドルレートは、緩やかな下落を予想します。米利上げ観測に伴う日米の金融政策の方向性の違いや原油高による日本の貿易収支悪化から、当面円安圧力は継続するとみられます。ただし、2022年央以降は米国の景気とインフレがピークアウトする見通しであることから、米ドルの上値は徐々に抑制されてくるとみています。円の対ユーロレートは、緩やかな下落を予想します。ユーロは、欧州復興基金による景気回復やインフレ上昇によるECBの金融政策正常化観測などから徐々にレンジを切り上げるとみています。また、円の対豪ドルレートも緩やかな下落を予想します。ウクライナ危機に伴う資源価格の堅調推移が豪ドルをサポートするとみています。
<リート>
米国リート市場は、FRBによる金融政策の大幅な引き締めが意識されるものの、長期金利がすでに大幅に上昇したこともあり、金利上昇をある程度織り込んでいるとみられます。利上げが行われても、米国経済は堅調さを維持すると想定していることから、米国リート市場は底堅く推移する見通しです。欧州リート市場は、短期的には地理的に近いウクライナ危機を懸念して上値の重い展開を想定しますが、中長期では財政支出による景気回復とともに上昇を予想します。日本リート市場は、新型コロナウイルスの感染減少を受けた経済再開の動きから上昇するとみています。アジア・オセアニアリート市場は、景気回復に伴いシンガポール中心に上昇するとみています。
※上記の見通しは当資料作成時点のものであり、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。今後、予告なく変更する場合があります。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『先月のマーケットの振り返り(2022年4月)』を参照)。