「認知症」と「単なる老化現象」を見分ける2つの視点
先のチェック項目で、たとえ認知症の疑いありと出ても、なお受診をためらう人は多いのではないかと思われます。実際、家族が本人に受診を促しても「自分を病気扱いするのか」などと怒りだすといったケースはよくみられます。
家族としても、できれば認知症と診断されたくないという気持ちが働き、医療機関への足が重くなるものです。
実際に、先述の項目一つひとつを見ると、老化による一時的なもの忘れでも起こり得ることは少なくありません。これをもの忘れか、認知症か見分けるには、次の2つの視点を持っているといいでしょう。
■認知症の人ほど「自分は認知症かもしれない」と思わない
一つは「本人に病識があるか、ないか」です。
認知症の場合はまず、本人に病識がありません。裏を返せば、自分は認知症かもと心配になり自ら受診する人はまず、認知症ではないことがほとんどです。MCI(認知症予備軍。推計400万人いるとされる)や認知症でもごく初期の段階では、本人が悩んでいても家族は気にしていないというケースが多々みられます。
ところが、明らかに認知症と診断されるような場合は、状況が逆になります。つまり、家族が悩んでいる一方で、本人はまったく気にしていないのです。
初診で、家族に伴われてきたときに、まずご本人に「どうしました?」と尋ねます。そうすると、「私は何ともないのですが、この人が病院に行けと言ったので」という返答が返ってきます。何気ない受け答えですが、認知症が疑われる根拠になります。
その後、家族にこう尋ねてみます。「おうちではどうですか?」すると、「先生の前でだけ、しゃんとしています」と返ってくることが多くあります。こうなると認知症の疑いはますます強くなります。
■「昔に比べて悪化している」と感じるなら要受診
もう一つは、「だんだん重度化するか、しないか」です。
ものの置き忘れを例に挙げれば、以前は週1回程度だったのが3日に1回、そして毎日というように、だんだん頻度が高くなるのが認知症の特徴です。ある程度の期間、観察する必要はありますが、そうしなくても家族が過去と比べて、以前よりも悪くなっていると思われるならば、認知症を疑っていいのではないかと思われます。
一般的に認知症と思われるような場合でも、認知機能の改善が可能なMCIの場合もあります。これも早期にケアやリハビリを行うことが改善の条件となるため、本人が嫌がっているとしても早く受診に結びつけることが大切です。
いずれにしても早く受診することは、本人にも家族にもメリットが大きいことは明らかです。受診をしてみて認知症でなければ安心できるし、MCIであれば改善の可能性があります。もし認知症の診断がついたとしても早期のうちなら、進行を遅らせて十分なケア体制を整えることができます。本人も家族も、時間と心に余裕がもてるのです。
旭俊臣
旭神経内科リハビリテーション病院 院長
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