今後の見通し…中国は独自の「新しい生活様式」へ
さて、今後の見通しはどうなるか。上海のロックダウンの解除は地域を区切って段階的に行われていくとみられ、実際に4月中旬から限定的な外出が認められるエリアもある。
ただ、必ずしも「解除即自由」とはなっていない。区や街道(街のような区画)を跨いで移動してはならないなどの規制が残り、今後許可されたとしても外出時に通行証やPCR・抗原検査などの陰性証明が求められるかもしれない。また、自宅の封鎖が解除されても、勤め先のオフィスや工場が閉鎖状態のままでは働き場所がない。逆もまた然りだ。
上海市の現行規定では、マンションやオフィスで陽性者が1人でも出れば14日間のロックダウンが行われる。ロックダウン中に陽性者が発覚すれば、その日からのカウントで14日間がまた始まる(いわゆる「隔離のおかわり」)。封鎖解除後で自由の身になっても、その後に1人発見されれば「振り出しに戻る」。すぐに14日間の隔離生活がスタートする。
こうなると、いきおい市民の生活様式がやや消極的になることが予想されよう。
上海全域の封鎖解除は5月中旬にずれ込み、そのあとに経済・生産活動が徐々に正常化するとみられるが、当面は不要不急の外出や外食は避け、会議やイベントも小規模またはオンラインでの開催が多くなるとみられる。
旅行や出張の機会も減りそうだ。訪問先で感染したり濃厚接触者になると14日間の強制隔離となるリスクが出てくる。出張から勤務先に戻った者が濃厚接触者と判明すると、その濃厚接触者として同僚やオフィスが隔離・閉鎖を余儀なくされ、業務に支障が出る場合もある。
2,500万人の上海市民は1ヵ月以上の不自由な生活を強いられただけに、封鎖解除に伴い解放感が"爆発"し、消費や観光、外食関連のベントアップ需要が創出される可能性もある。
もっとも、これは短期的な動きにとどまるとみられる。新型コロナの感染状況やゼロコロナ政策の継続という現実を前に、消費行動はやや保守的なものになりそうだ。
物流やサプライチェーンへの影響も長引きそうだ。上海のロックダウンによる通行制限で輸送網が寸断され、現場は混乱を極めている。民間の物流トラックが政府の配給品配布用に接収され、市民のネット注文品の大幅配送遅延が起きるなどの事態もあった。
また、隣の江蘇省には電子系企業の工場が多数あるが、上海経由での製品や部品の輸送が滞り、出荷への影響や工場の稼働一時停止なども報告されている。この混乱は5月も続きそうで、正常化し始めるのは6月以降になるとみられている。
いずれにせよ、今回の封鎖を経て、上海はもとより中国各地でライフスタイルの変化が伺える。不要不急の外出を減らす、旅行は「安・近・短」がメイン、保存食の備蓄を増やす動きなどが今後も強まろう。都市部では、食事をヘルシー志向にしたり、外食はできるだけ個室を利用するという声も聞かれる。
このような中国版「新しい生活様式」が今まで以上に強く意識されていくと思われる。
奥山 要一郎
東洋証券株式会社
上海駐在員事務所所長
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