心不全の「進行具合」を表す4つのステージ
がんには「ステージ1」から「ステージ4」まで、4つのステージがあります。最近では「ステージ0」といって、がん細胞が粘膜内(上皮細胞内)にとどまっている状態のものも、「がん」に含む、という考えもありますが、一般的に、がんはステージ1から4までの、4つのステージに分類されます。
心不全もこれと同じく、進行具合によって4つのステージに分けられます(図表1)。
まず、ステージAとは高血圧、糖尿病など、心不全につながる危険因子を抱えている段階です。場合によっては動脈硬化が起こっていることもありますが、まだ心不全の症状は現れておらず、心臓の機能にも異常は見られません。
ステージBの段階では心臓の働きに異常が見られます。心肥大や心拍出量の低下などが現れ、心不全の原因になる心筋梗塞、弁膜症、心筋症、不整脈などを発症している場合もあります。
このステージBを放置するとステージCへ移行して、ついに心不全が現れてしまいます。急性心不全を発症し、その症状がいったん落ちつくと、今度は慢性心不全へ移行します。そして慢性的に心臓に負荷が掛かる状態が続き、息切れや動悸、むくみなどが出現し始めます。
良くなったり悪くなったりを繰り返しているうち、心不全はどんどん治療が難しくなり、難治性になっていきます。心臓の機能はますます衰え、場合によっては補助人工心臓や心臓移植を考慮する段階となります。全身的な苦痛が生じる場合は緩和ケア(終末期ケア)へ移行していきます。これがステージD、いわゆる心不全の最終局面です。
■心不全の予防・治療には「ステージAの段階から手を打つこと」が必要
こうして見てみるとステージAやステージBは、いわば心不全を発症する前の予備段階だと分かります。つまり、本当に心不全を予防したり治療したりするには、心不全を発症したステージCの段階から考えるのではなく、ステージAの段階から手を打つことが必要なのです。
ステージAの段階で手を打てば、ステージBへ移行せずに済むかもしれません。仮にステージBへ進んでしまったとしても、そこで踏みとどまれば心不全を発症せずに済むかもしれないということです。
このように考えると、心不全の発症や進行を予防するためには、4回チャンスがあることが分かります。少しでも早い段階で踏みとどまること、これが心不全の予防や治療において最も大切な考え方です。
「重症度」による分類方法も…ステージとの違いは?
ステージAからDまでは進行状況による分類でしたが、これとは別に、心不全を重症度で分類する方法もあります。
「NYHA(エヌワイエイチエーあるいはニーハ)心機能分類」は、ニューヨーク心臓協会(New York Heart Association)によって作成されました。これは、心臓の動きの良し悪しではなく、心不全の症状の程度がどれくらい強いかを見るものです。心不全は、さまざまな身体活動により生じる自覚症状により、4つの段階に分類されます(図表2)。
■進行状況の「ステージ」は後戻りできないが、重症度の「クラス」は戻せる
このNYHA心機能分類の特徴は、治療によってクラスを一つ前の段階に戻せる、ということです。ステージ分類では、次のステージに進むと元に戻ることはできません。
一度心不全を発症してしまうと、二度と心不全を起こさなかったとしても、ステージCからステージBに戻ることができないのです。
しかしNYHA心機能分類では、治療を進めることによって、クラスを後退させることができます。ただし、NYHA心機能分類を用いるとき注意しなければならないのは、(実際の臨床現場では)同じクラスに分類される人のなかでも、個人差が大きいということです。
例えば、同じⅡ度に分類される人でも、Ⅰ度に近い人もいれば、Ⅲ度に近い人もいます。それらの人の心臓を比べた場合、大きな差があるのは明らかです。そのため、実際に心不全の症状を判定するには、ステージ分類とNYHA心機能分類を掛け合わせ、複眼的に考察する必要があります。
ステージ分類とNYHA心機能分類を重ね合わせて考えると、ステージBがNYHAⅠ度に、ステージCがNYHAⅡ度とNYHAⅢ度に、そしてステージDがNYHA Ⅳ度に当たります(図表3)。ステージAは、まだいずれの身体症状も現れていないため、NYHA心機能分類では対象外です。
つまり、ステージAという「危険因子あり」の状態で心不全の発症リスクを解消しておくことが、予防のために重要なのです。さらに、ステージやクラスを一つでも先に進めないためには、次のステージやクラスの内容を見越して、早めの対策を打っておくことが大切だといえます。心不全の対策として、先手必勝に勝るものはありません。
大堀 克己
社会医療法人北海道循環器病院 理事長
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