(※写真はイメージです/PIXTA)

夫婦間において、居住用不動産または居住用不動産を取得するための金銭の贈与が行われた場合、基礎控除110万円のほかに最高2,000万円まで控除される、「贈与税の配偶者控除」。一見すると非常にお得な制度に思えますが、活用に当たっては、贈与税以外の課税がある点や、「長生きリスク」に伴う懸念事項も含めて検討することが大切です。多数の相続問題の解決の実績を持つ司法書士の近藤崇氏が解説します。

メリット…夫婦間に、大きな「財産格差」がある場合

●夫の相続財産を減らすことができる

 

夫の個人財産が多く、妻が専業主婦のようなケースの場合夫婦の財産に「大きな差」がある場合、「夫」の相続財産を減らす相続対策とし有用といえます。

 

例えば、夫が医師や会社経営者で、財産(その他現金や不動産、自社株などを含めて)が1~2億円ほどあるが、一方の妻は長年専業主婦で、個人的な資産があまり多くない場合などです。

 

夫が先に死亡したケースの場合、配偶者控除を使っても妻の非課税分にあたる1億6,000万円を超えます。このようなケースの場合、本制度の検討をされる方が多くいます。

 

この例での夫婦の財産差は極端だとしても、この相談をしていただく方のほとんどは、どちらかの財産が配偶者の財産を大きく超えるパターンが多いのです。

デメリット…税金面、不動産の登記の面での注意点あり

ただし、上述したケースでも、メリットばかりとはいえないと思われます。この制度のデメリットについては、税金面でも、不動産の登記の面から見ても、何点か上げることができますので、個別に検討します。

 

①不動産が共有関係になってしまう

 

まず、第一のデメリットとして、不動産が共有関係になってしまうことがあげられます。登記簿上、共有関係になりますので、夫、妻、それぞれの死亡時に「相続」による不動産登記」手続きをしなければなるため、その費用や手間が掛かります。どちらかの単独所有ならば、例えば子どもが相続する場合などは、不動産登記は1回ですみます。

 

また潜在的リスクとして、特に昨今心配される方の多い「認知症などによる資産凍結のリスク」があります。現在、認知症になる方の割合は増加する一方といわれています。認知症になってしまい、正常な判断ができなくなってしまった方について不動産を売買契約ができないため、成年後見人制度や家族信託などの利用も増えています。これらがいわゆる「認知症などによる資産凍結のリスク」です。

 

単純に不動産を夫婦共有とした場合、当然、もし不動産を売却、あるいは担保提供する場合には、夫婦2名とも正常な判断能力を有していることが求められます。単純にいえば、単独所有の不動産よりも、夫婦共有不動産については「認知症リスク」は2倍あるということです。 この点でも、共有不動産には潜在的なリスクが少なからずあるといえるとでしょう。


②登記に関する登録免許税は非課税でない

 

この点は誤解されている方が多くいます。この制度で非課税となるのは「贈与税」についてであり、不動産登記において課される「登録免許税」は非課税とはなりません。

 

贈与を原因とする所有権移転登記にかかる登録免許税などの税金は、登録免許税の中でも高く、固定資産税評価額の2%です。「売買」を原因とする場合、多少の減税措置が入り1.5%ですので、土地の購入時よりも高い税金が課されます。

 

路線価で2,000万円程度の不動産の贈与ですので、路線価より若干安い不動産固定資産税価格の2%となると、非課税枠をフルに使った場合、登録免許税だけでおおむね30万円~35万円程度の税金が課されます。その他、司法書士の登記や契約書作成費用などを勘案すると40万円~45万円程度の費用は見ておかないとなりません。

 

またその他に、不動産を取得したことによる「不動産取得税」も課されますので、こうした贈与税以外の税金についても費用を検討しておかないとなりません。

 

③そもそも「同居の相続人」に自宅を渡すなら、相続時の「小規模宅地等の特例」がある

 

被相続人の自宅(の土地)を、死亡時に「同居をしていたり、所有不動産を持たない」相続人に相続をさせた場合、一定の坪数までは「8割引」で相続税上は評価してもらえます。

 

このため2,000万円分の夫の相続財産を減らしたとしても、相続発生時に「小規模宅地等の特例」を使えるのならば、実質的な効果はその2割程度しかないともいえます。

 

そもそも配偶者については、相続財産が1億6,000万円までは相続したとしても非課税枠のため、この点でもあまり効率的とはいえません。

 

また相続ならば前記の不動産登記にかかる登録免許税も、固定資産税評価額の0.4%ですむのです。

 

 

近藤 崇
司法書士法人近藤事務所 代表司法書士

 

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本記事は、司法書士法人 近藤事務所が運営するサイトに掲載された相談事例を転載・再編集したものです。

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