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早期発見できるか否かが「その後の重症化」を左右
アルツハイマー病は今のところ、不可逆的、つまり進行を止めたり治したりする方法は確立されていません。しかしそれは、何をやっても無駄、何をやっても悪くなる一方、ということを意味しているのではありません。
図表1は、アルツハイマー病の治療・ケア開始時期とその後の重度化との関係をモデル化したものです。
このように、診断や治療の開始が早期であればあるほど、症状の進行はゆるやかになることが分かっています。初期のうちに介入すれば、そうでなかった場合と比べ、心理機能・運動機能ともに改善することもある――これはアルツハイマー病以外の認知症にも当てはまります。
さらに、認知症は環境の変化や精神的なショック、身体合併症による入院などによって、急に状態が悪化することがあります。認知症を進行させる要因をできるだけ排除するとともに、適切なタイミングでケアを行えば、進行を防ぐこともできるのです。
近年は薬物治療が進歩し、記憶障害の進行を遅らせたり、BPSDを抑えたりするのに著効が期待できる薬も登場しています。しかしこれらも、病気が進んでからの投与では効果が望めません。
また、グループワークを中心とした入院デイケアや通所リハビリも認知機能や運動機能の維持、改善に大きな役割を担えることが分かってきています。病気そのものは進行性であっても、こうした薬物治療やリハビリを導入することで、表に現れる症状をコントロールすることは十分可能なのです。
ここでいう「症状のコントロール」には、急な重度化を防ぐという意味と、暴言や暴力といった介護者にとって多大な負担のかかるBPSDを改善するという2つの意味があります。
介護者にとって大変な中期の段階でも、適切な治療とリハビリでBPSDの出現や重度化、中核症状である記憶障害の進行を抑え、介護者との良好なコミュニケーションをとれる状態にすることは可能なのです。
症状が“足踏み状態”、すなわち安定すれば、本人も介護者にとっても楽であることは明白です。
早期に診断されれば、適切な対応やケアの仕方を十分に勉強したり話し合ったりする時間もとれます。また、介護サービスを受けるための準備をするなど、介護の体制づくりも余裕をもってできます。長期的な介護計画を立てることができるというのは、大きなメリットといえるでしょう。
いきなり進行した状態から、知識もなくやみくもに介護しようとしても、本人にとって的外れなものとなり、心理的に追い詰めるなど逆効果になってしまう恐れがあります。
早期発見の重要性は「1992年の入所評価」からも明白
当院は1990年に老人保健施設を併設し、認知症の病状があって家庭での対応が困難な方の入所を受け入れてきました。入所の間は認知症リハビリを行っており、その結果、病状のある程度の改善がみられています。その後、入所を希望する認知症の人たちが増えてきました。
老人保健施設では、入所を希望する人にはまず、評価入所という一時的な入所をしていただき、2ヵ月程度の治療やケアを経て、定期入所に移行するのか、それとも在宅ケアか、デイケア(通所)かなど、その後の方針を定めていきます。
1992年に評価入所した認知症の患者102人について、入所前と入所後の認知機能を評価した記録があります。その内容を簡単に報告します。
認知症の原因疾患としては血管性認知症52人、アルツハイマー型認知症36人で、全認知症患者の大半を占めていました。入所前に改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R、図表2)で評価を行った結果、10~22点のなかに大多数が入り、軽度~中等度障害の人が88人、重度障害は少数でした。
平均76日の入所期間後に再評価したところ、治療やリハビリ、ケアを行った結果、25人にHDS-Rで5点以上の改善が認められました。
ここで注目すべきは、改善した認知症の人の特徴です。最も改善が著しかったのは、血管性認知症でHDS-R15点以上の軽度障害の人だったのです。さらに、認知症発症後6ヵ月以内の人に多いことも分かりました。また、老人保健施設に入所したことのある患者ほど長く在宅で過ごせることも分かっています。
このように、対応が早期であるほど大きな改善が見られることが、当院のケースでも明らかになったのです。改めて早期発見・早期対応の重要性を実感しています。
早期発見を阻む「取り繕い」の行為
しかしながら、早期発見には難しい面もあります。
認知症の初期では、本人ももの忘れの自覚があることが多いのですが、まさか自分が認知症とは思わない人がほとんどです。それでもいつか家族や周囲にあれっ?と思われるときがくるでしょう。そうなったらどうするかというと、他者にさとられまいとする「取り繕い」の行為におよぶことも多々あります。
本人にとって、記憶が失われていくことは恐怖でもあります。ましてそれが他者に知られてしまうと、あたかも弱みを握られたように感じてしまうものです。認知症であろうとなかろうと、人に弱みを見せるのは恥ずかしく思う人が大多数でしょうし、年配者であればなおさらです。そのため、とっさに取り繕ってしまうのです。
この取り繕いには、医師も惑わされることがありますが、そのために認知症の診断が遅れてしまわないためにも、家族などの同伴者にも普段の様子を聞くことが大切になってきます。
旭俊臣
旭神経内科リハビリテーション病院 院長
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