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『生物都市』が物語るAIの恐怖
幻想と怪奇を主題とした作風の諸星大二郎という漫画家がいる。その作品の中に『生物都市』という恐ろしい漫画があった。
機械文明が発達したある日、宇宙船がイオという星から持ち帰った、生物を機械に同化させるよう働く感染物質のおかげで、機械に触れた人間が機械に吸い込まれ同化してしまうという作品である。同化すると同時に個という存在はなくなり、意識も思考も一体化して、単一の巨大な機械生物となる。ただ機械や金属に一切触れなかったものだけが同化を免れる。
この正月、AIを特集したテレビ番組を見ていて、私はこの漫画を思い出した。AIベンチャーの経営者やITの専門家がAIの未来を熱く語っているのだが、彼らのオフィスは喫茶店風であったり、ホテル風であったり、自宅であったり、いろいろな環境の違いがあるにしても、どこであろうと人々はPCを前にして座っていた。そのような風景が、機械に同化してゆくテーマの漫画を思い出させたのである。
彼らはPCを操っているというより、むしろPCにつながれ使われていて、PCという機械に同化させられていくように見えたのである。実際、すでにどこかの国で始まっているようにITで人間を管理する社会では、人間は機械に同化させられる運命を辿るのではないか。
AIがより高度化するにつれ、顔写真だけでなく身体データも管理され、誰の体にもチップを埋め込むことが義務化されるといったことが起こるやもしれない。個々の意識や考え方も、ネットに流れる情報の操作によって管理されてゆくのではないか。
そもそも機械は必ず事前に作られたプログラムによって立ち上げられ、その枠から出ることはできない。こういう存在を決定論的仕組みと言い、ディープラーニングをしても自らのシステムを変えることはできない。決定論的仕組みでは構造がダイナミックに変換することはないのだ。
一方、人間を含め生物にプログラムはない。よくDNAが設計図と誤解されるが、決定論的仕組みのプログラムとは全く異なる。生き物はさまざまな要素が絡み合う流れの中にプログラムなしに立ち上げられる渦のようなものである。こういう存在を散逸系といい、一瞬たりとも同じ要素でできてはいない。それは裏返せば、ダイナミズムを封じられることで、本来の機能を失いやすいということを意味している。
人は知らず知らずにITに同化することで、自ら生き物としてのダイナミズムを放棄しつつあるように思える。実際、私のところに来るかなりの人々がPCに終日へばりつく仕事をしている。それは精神のダイナミズムを失い、うつ状態を引き起こす要因の一つなのではないか。今の世は、ITだけでなくさまざまな道具や機械による便利さが、人間の生き物としてのダイナミズムを失わせるように働いている。
電子カルテにより医師は患者の表情を見なくなり、ナースはステーションのPCで記録づくりに精を出し、患者のそばに行く時間を減らしている。やはり医療もシステム化が進み、一つとして同じもののない生き物を機械で管理しようとしている。そして、減るはずの紙が増え続けている(昔はシュレッダーなどいらなかった)。しかしいまさらITはやめられない。世界はITに侵食されつつあるのだ。それを防ぐのは容易ではない。
遠山 高史
精神臨床医
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