(※写真はイメージです/PIXTA)

ショッピングモールの凋落はアメリカに限った話ではありません。特に新型コロナ感染拡大によって壊滅的な影響を受け、来店客が集まらず、危機的な状況を迎えています。何がショッピングモールに起きているのでしょうか。ダグ・スティーブンス氏が著書『小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」』(プレジデント社)で解説します。

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    お客である中産階級の消費者が消滅した

    ②経済性

    北米のショッピングモールの成長の原動力となったのが、第2次大戦後に爆発的に増加した中産階級だ。現在、中産階級の消費者は絶滅危惧種かと思うほどに減少してしまったが、消費者の大多数が、中産階級にうまく収まる時代が確かにあった。

     

    大戦後に発展した先進国世界では、中産階級は、政府が超党派で情熱を持って進めたプロジェクトが生み出したもので、復員軍人に教育や住宅購入資金の貸し付け、労働組合による保護といった便宜を図る目的があった。1980年代初期以降、多くの国々で中産階級が消えつつある。1980年代後期から1990年代にかけて、共働き世帯が増えたにもかかわらず、平均世帯の暮らし向きが良くなることはなかった。進行するインフレについていくのがやっとだったからだ。

     

    ロボットやコンピュータなど革新的な新技術が導入されたことに加え、労働組合の力が低下し、賃金は頭打ち、仕事が海外に流出した結果は、主に2つある。まず1つめの結果は、企業にとっては、過去最高の利益と株価が達成されたことだ。2つめは、アメリカでも他の国々でも、中産階級の労働者にとっては、不安になるほど賃金が伸び悩んでいることだ。端的に言えば、1978年から今日までに、アメリカの労働者の賃金は12%増加した。

     

    CEOクラスになると、もっと伸びている。どのくらいの伸びか気になるだろう。普通の労働者が1割強しか増えていないのに対して、CEOは10倍弱が上乗せされたのだ。誤植ではない。アメリカの非営利のシンクタンクである経済政策研究所によれば、CEOクラスの報酬は1978年当時を100とすると、現在は1028と、爆発的に増加している。実に10倍以上である。今度、ファストフードのドライブスルーでスピーカーから聞こえてくる声が心なしか元気がないなと感じたら、察してあげてほしい。

     

    その間にも、住宅、医療、教育などにかかる費用は、天井知らずだ。たとえば、1979年から2005年までの期間を見ると、住宅ローンの返済は76%増、健康保険料は74%増、自動車購入費用は52%増(アメリカの場合、一家で2台必要な家庭が多い)、保育園費用は100%増、共稼ぎ世帯の税率は実に25%も上昇している。

     

    持てる者と持たざる者の格差は広がる一方だ。

     

    現在、アメリカの株式の80%以上が、社会全体の10%しかいない富裕層の手にある。

     

    2018年のアマゾン従業員の賃金の中央値は、3万5000ドルだった。一方、2020年1月30日のたった1日だけで、同社の株価が上昇した結果、アマゾンの前CEO、ジェフ・ベゾスに130億ドルが転がり込んだ計算になる。

     

    2020年には、アメリカの貯蓄率は50年ぶりの高水準に達している。貯蓄が増えたと言っても、富裕層以外の90%に相当する私たちにとって、総所得の1%をわずかに上回る額が増えただけのことである。こうなる前は、貯蓄率がゼロを下回る時期が長く続いていた。だが、上位10%の富裕層では貯蓄率は10%を超えていて、上位1%ともなると、その数値は40%に跳ね上がる。

     

    たとえば、アメリカで最後に最低賃金の引き上げがあったのは2009年のこと。世界金融危機の真っ只中の措置で、ちょうど連邦最低賃金が時給7・25ドルだった。それ以降、アメリカの生活費は平均で20%上昇している。住宅や教育など一部の費用は、もっと上昇している。

     

    パンデミックで所得格差は、さらに拡大するだろう。

     

    その末に、「高級ショッピングモールか、アウトレットモールか」という二極化が進みつつあり、その中間では、何もかもが吹き飛ぶほどの悪い知らせがある。中産階級の消費者を想定して誕生したショッピングモールだが、その中産階級の消費者自体が消えつつあるのだ。

     

    ③ 郊外化

    欧米の百貨店の成長は、戦後の郊外流出の動きと符合している。さらに、格安の土地が豊富にあり、まじめなショッピングモール労働者を大量に確保でき、さらに自家用車を持っていて可処分所得に余裕のある中産階級の人口が多かったことも無関係ではない。1950年代から1990年代までは、ショッピングモールを次々に造っても需要に追いつかないほどだった。

     

    潮目が変わったのは2000年代に入ってからだ。雇用、富、所得の都心回帰が始まると、一部の郊外型ショッピングモールは、巨額を投じて高級モールへの模様替えと路線転換に動いたものの、ほとんどは何も手を打てないまま、業績回復に転じることはなかった。

     

    2007年に入ってから、アメリカでは、エンクローズドモール(巨大な建物内に全テナントが入る屋内型ショッピングモール)の新規建設が途絶え、ごく最近になってニューヨークシティの「ハドソンヤーズ」やニュージャージー州イーストラザフォードの「アメリカンドリーム」といったメガモールが誕生したくらいだ。現在、パンデミックの影響もあり、こうした久々の新規オープン組でさえ先行きは不透明だ。

     

    ダグ・スティーブンス
    小売コンサルタント

     

     

    ※本連載は、ダグ・スティーブンス氏の著書『小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」』(プレジデント社)より一部を抜粋・再編集したものです。

    小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」

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    ダグ・スティーブンス

    プレジデント社

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