(※写真はイメージです/PIXTA)

健診結果で必ずチェックすべきは「有所見率」です。なんらかの所見(異常や疑い)が見つかった社員がどれくらいいるかを表す数値です。各検査項目で平均と比べて有所見率が高いところが、その職場の健康リスクです。産業医の富田崇由氏がコストゼロからできる健康経営について解説します。

集計結果を各種検査項目を比較検討

■集計結果を地域の産業保健データと比較する

 

健診が終わって結果が会社に届いたら、健康管理の担当者は、社員全員の健診結果の集計をしてください。

 

必ず見るべきポイントは「有所見率」です。有所見率は、なんらかの所見(異常や疑い)が見つかった社員がどれくらいいるかを表す数値です。

 

血圧や血中脂質などの各検査項目別に、A(異常なし)、B(軽度異常)、C(要再検査・生活改善)、D(要精密検査・治療)、E(治療中)に該当するのがそれぞれ何人かを集計します。このうちAの人を除いて、B~Eの人を合計して職場全体に占める割合を示したものが、有所見率になります。

 

検査項目ごとの有所見率のほかに健診の検査項目すべてがAだった人を除き、何かしらでB以上があった人の割合を出したものが、職場全体の有所見率になります。

 

これらの数値を出したら、平均的な数値と比較します。比較するデータは厚生労働省のホームページに載っている「定期健康診断結果報告」が使いやすいです。毎年の検査項目別の有所見率が出ているので、各項目を比較することができます。例えば2020(令和2)年のデータでは、血圧の全国の有所見率平均は17.9%です。自分の職場の血圧の有所見率が20%だというときは、平均よりも少し血圧が高い人が多いことになります。

 

ちなみに、厚生労働省の「定期健康診断結果報告」では全体の有所見率(定期健診全体で何らかの項目でB以上があった人の割合)を、都道府県別や業種別でも出しています。それらを参考にするのも有意義です。

 

【画像】あなたは大丈夫?「定期健康診断結果報告」

 

■有所見率の高い検査項目と、考えられる対策例

 

各検査項目で平均と比べて有所見率が高いところが、その職場の健康リスクであり、優先的に対策を検討したい部分です。健診結果の分析でよくあるケースと、その対策例は次のようになります。

 

ケース① 血圧・血糖・血中脂質の有所見率が高い

定期健診を集計・分析したところ血圧や血糖、血中脂質、肝機能などの異常が平均よりも高かったという職場は、労働時間や労働環境、業務の負担などの見直しと、社員個人の食事や飲酒、運動、睡眠といった生活改善の、両方が必要になることが多いです。

 

労働時間という点では、長時間労働が続くと脂質異常の人が増加することが統計的にわかっています。睡眠時間が少なくなると脂質代謝のバランスが崩れ、脂質異常や肥満が増えるとの指摘もあります。十分な睡眠・休息が確保できるような働き方を検討していかなければなりません。

 

国立研究開発法人国立国際医療研究センターによると、通勤や仕事での活動性が低いと肥満になりやすいという報告もあります。徒歩、自転車、電車・バスなどで通勤している人より、マイカー通勤の人のほうが、体重が増えやすいということです。体重が増えると、それだけで血圧や血糖、血中脂質、肝機能などの数値が悪化しやすくなります。コロナ禍で通勤が少なくなり、リモートワークが増えたという人も気をつけなければなりません。

 

また近年は20~30代にも、肥満や高血糖、脂質異常が増えています。働き方の見直しと併せて、社員に対して健康的な食習慣などの健康教育を行っていくことも重要です。

 

ケース② 肝機能の有所見率が高い

肝機能の異常というと、昔はアルコールをたくさん飲む中高年の男性に多いものでしたが、最近は若い世代や女性にも増えているのが特徴です。アルコールの過剰摂取が原因であれば、禁酒をすることで比較的容易に数値が改善します。ただ近年は食生活の乱れや運動不足、ストレス、昼夜逆転の生活などにより、非アルコール性脂肪性肝疾患(NASH)を発症する人もいます。この場合は血圧や血糖、血中脂質などと同様に、働き方と生活全般の見直しが必要になります。

 

業務との関連でいうと、塗装業(大型金属の洗浄や塗装)の人で飲酒習慣のある人は肝機能低下が起こりやすいとの指摘があり、有機溶剤を扱う職場はより注意が必要です。

 

次ページ健診後の「事後措置」のやり方

※本連載は、富田崇由氏の著書『コストゼロで作る小さな会社の健康な職場』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

コストゼロでつくる小さな会社の健康な職場

コストゼロでつくる小さな会社の健康な職場

富田 崇由

幻冬舎メディアコンサルティング

働く人の健康問題に注目が集まっていますが、組織として健康増進に取り組んでいる企業は多くありません。 「健康経営」や「従業員の健康づくり」は必ずしも産業医がいなければできないものではなく、小さな会社でもコストを掛…

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