スムーズな事業承継に必要な「磨き上げ」
ステップ③:事業承継に向けた経営改善(磨き上げ)
社長を交代するまでの間、現経営者が事業の維持・成長に努めないことには、後継者は安心してたすきを受け取ることができません。
そもそも、子どもたちが会社を受け継ぎたくないのは、会社の将来性や可能性に不安を覚えていることも理由の一つです。「後を継ぎたい」と思えるような状態にしておくなど、経営改善を通じて魅力ある体制をつくりあげることが望ましいでしょう。
先にも述べましたが、とりわけ親族内承継では相続税対策を気にするあまり、不動産や高級自動車など事業とは無関係の資産を購入したり、株価を意図的に低下させたりする手段が散見されますが、これらは事業の存続や発展を妨げる恐れがあります。
むしろ、本業をしっかりと磨き上げ、事業承継が飛躍的な発展のきっかけになるよう、よりよい状態にしておきたいものです。具体的な取り組みとしては、次のようなことが考えられます。
・本業の競争力強化:事業の強みを明確化し、弱点を改善する。製品の高精度化、短納期化、人的資源の強化など。自社のシェアが高いもしくはニッチ市場に対する商品・サービスの拡充など。「中小企業等経営強化法」に基づく「経営力向上計画」の策定・実行が有効。
・経営体制の総点検:社内の風通しをよくして従業員のモチベーションを高める、役職員の職制・職務権限の明確化、業務権限に委譲、各種規定・マニュアルの整備、ガバナンス・内部統制の向上。事業に不必要な資産・滞留在庫の処分、余剰債務の返済など。
・経営強化:財務状況の正確な把握。適切な経営判断や、利害関係者への説明による信用力の獲得など。
これらに加えて経費削減や商品・ブランドイメージの向上、優良顧客、金融機関、取引先との関係、知的資産の強化なども磨き上げに含まれます。経営者自らが行うこともできますが、士業をはじめとする専門家や金融機関などのサポートを得ながら進めると効率的です。
一方、承継したいものの業績が低迷していて、債務整理などを必要とする会社もあるかもしれません。放置しておくと後継者を確保できなかったり、承継後に後継者が苦労したりします。事業承継を事業再生のタイミングと捉え、弁護士などの専門家に相談することです。
ステップ④―1:事業承継計画の策定
親族内・社内承継の場合、次なるステップは事業承継改革の策定です。詳しくは後述しますが、事業承継を具体的に進めるには自社や自社を取り巻く環境を整理し、会社の10年後を見据えたうえで、いつ、どのように、何を、誰に承継するのかについて、事業承継計画に落とし込む必要があります。
その際は現経営者一人ではなく後継者などと共同で策定し、策定後は従業員や取引先と共有しておくと、関係者の理解・協力を得られやすくなるでしょう。後継者や従業員は事業承継に向けた組織体制の整備や必要なノウハウを習得し、取引先からは関係の維持・発展を期待することができます。
ステップ④―2:マッチングの実施
社外承継やM&Aを選択した場合、現経営者は親族や従業員以外の第三者に事業を引き継ぐことになります。社外承継であればこれまでの人脈を頼るのもいいですし、近年では後継者候補を紹介する人材バンクのようなサービスもあるので、これらの活用も検討しましょう。
一方、M&Aは経営者自らが行うのは非現実的で、専門的なノウハウを持つ仲介機関を通すことが一般的です。M&A専門業者、金融機関、士業などの専門家、公的機関の「事業引継ぎセンター」が候補として挙がります。
その際は希望する売却金額は言うまでもなく、「会社全体を譲渡する」「従業員の雇用・処遇を維持する」「一部の事業を売却する」など、経営者の考えを明らかにしたうえで交渉に臨まないといけません。これらの条件を仲介機関に伝え、交渉相手を見つけることになります。すぐ条件に合った相手が見つかるとは限らず、M&Aも時間をかけてじっくり取り組むことをお勧めします。