建替えが進まない原因②…「強制退去」の法律がない
建替えで一番大きなネックとなるのは、「すべての居住者を退去させることができるか」ということです。
2002年(平14)に「マンションの建替え等の円滑化に関する法律」通称「マンション建替法」が施行されました。そのなかで、建替え決議は「組合員の5分の4以上(区分所有者数と議決権の両方)の賛成で可能」と定められています。
決議後は、建替え賛成者の4分の3以上の賛成で「建替えの計画(事業計画)」と「マンション建替組合の運営ルール(定款)」が作成でき、さらに知事がそれを認めると、「マンション建替組合」をつくることができます(法人化)。
そして、「権利変換」という建替え後のマンションに移行する仕組みを作って建替えを進めていきます。
ここで、経済力のある組合であれば、建替え反対者の所有権を買い取ることができます。反対者が建替組合へ自分の権利の買い取りを請求すると、価格の合意があれば、売却して転出することが可能です。
しかし最大の問題は、ソフト面で述べた「住み慣れたこの部屋で最後を迎えたい」という居住者を、合法的に強制転居させる法制度がないことです。
国や地方公共団体が公共事業を行うために、補償を伴った強制的退去を命ずる手続を定めた「土地収用法」という法律がありますが、マンション建替えにはこのような制度がありません。
したがって、1人でもマンション内に残っている状態では建物の取り壊しができないのです。ほかの問題がすべて解決していても、建替える建物自体の建築もできません。
望ましい言い方ではありませんが、「誰が猫の首に鈴をつけるか」ということです。相手の人生を左右することですので、誰もがやりたくないことでしょう。また、必ず承諾をもらえる保証もありません。
つまり、マンションに残りたい人の動きが、建替えを大きく左右するのです。マンション建替えには、お金の負担を含むたくさんの合意形成が必要です。そのなかでも、この問題を解決しないかぎり、マンションの建替えは不可能でしょう。
三浦雅文
不動産鑑定士
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