前回は、マイクロソフト社の事例を紹介しました。今回は、本社機能を低税率の国に移転する節税スキームについて見ていきます。

「低税率国への本社移転」に積極的な米国企業

英エコノミスト誌によれば、2014年に入ってから、世界では一案件で100億USドル(約1兆500億円)以上のM&Aが15件あり、2007年以来最大の水準といわれています。なかでももっとも積極的なのは米国企業です。

 

たとえば、米通信大手AT&Tは衛星放送大手のディレクTVを485億USドル(約5.1兆円)で買収する意向を示しています。米国企業は記録的な大量資金を抱えながら、その有効な使い道を持っていません。自社株買いにも限度がありますし、投資に回すにも、直近まで成長性で魅力のあった中国、インドなどでも経済成長にかげりが見えつつあり、投資先が狭められているのです。そのような状況下、膨大な資金の使い途として浮上してきたのがM&Aです。

 

連載の第1回で触れたのが、失敗に終わった米製薬大手ファイザーによる英アストラゼネカのM&Aです。その資金として利用される予定だったのは、ファイザーが海外子会社に貯め込んだ690億USドル(約7兆2000億円)でした。

 

M&Aの目的はさまざまですが、法人実効税率40%と世界最高水準の法人税率にさらされる米国企業にとっては、海外M&Aによって本社機能を税金の低い海外に移転できるというメリットは大きな動機になり得ます。

 

もし、ファイザーが海外子会社の690億USドルを配当として米国に還流すると、法人実効税率40%で課税され、276億USドル(約2兆9000億円)もの納税が発生します。これは、税引き後利益をもっとも重視する投資家の意向を考慮すれば、決して採り得ない方策です。

 

一方、ファイザーのM&A戦略が成功し、イギリスに本社機能を移転できれば、課税割合は米国の40%からイギリスの21%へ低減できたはずでした。もっとも「40%」というのはあくまでも米国の法定法人税の実効税率であり、ファイザーの実効税負担率は27.4%でした。しかしながらM&A対象とされたイギリスのアストラゼネカの税率は21.3%ですから、依然その差は6.1%、海外配当の納税金額にして42.01億USドル(約4400億円)にも達します。さらにイギリスでは法人税率が引き下げられ、2015年4月からは20%になるのです。

 

これほど大規模ではありませんが、ほかにも低税率国への本社移転の例には事欠きません。

 

米国の心臓ペースメーカー製造などの医療機器大手メドトロニックは、2014年6月15日にアイルランドのコヴィディエンを429億USドル(約4兆5000億円)で買収すると発表しています。アイルランドの法人税率は12.5%ですから、メドトロニック本社がミネアポリスからアイルランドへ移転すれば、大幅な節税が期待できます。

イギリスに本社、オランダに本店――その利点とは?

また、イギリスが税務上の本社で、オランダに登記上の本店を置くケースもあります。
イタリアの自動車メーカー・フィアットによる、米クライスラーのM&Aがそのケースです。オランダに登記上の本店を置く理由としては、一定の条件を満たせば年次総会をオランダ国外で開催可能であること、また議事録も会議なしに作成することができ、さらにコーポレート・ガバナンスも不要、監査委員会も不要、といった利点があるからです。

 

イギリスが税務上の本社になれば、イギリスでは課税を受けます。しかし、もしイギリス法人が持株会社であれば資本参加免税制度(一定の株式保有率を満たせば、海外子会社からの配当が非課税になる等の優遇税制、イギリスの場合は10%)が適用されます。その場合、海外子会社からの配当に対してイギリスでの課税はなく、子会社の株式を売却した際のキャピタルゲインも非課税です。

 

この資本参加免税制度はイタリアにもありますが、こちらの場合、配当の非課税は95%までです。キャピタルゲインについても27.5%の税率で法人税がかかってしまうので見劣りしてしまいます。

 

このように、本社移転を伴うようなグローバル企業のM&A戦略は、移転先の税体系に大きく依存する可能性が高いといえます。

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    本連載は、2014年10月1日刊行の書籍『究極のグローバル節税』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

    本連載の内容に関しては正確性を期していますが、内容について保証するものではございません。取引等の最終判断に関しては、税理士または税務署に確認するなどして、ご自身の判断でお願いいたします。

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